第15章 偽りの愛
ごぉぉおおぉぉ……。
金属の重低音が土管の中の音を支配する。
少し身震いするような肌寒さは、思考を鈍らせているくらいで。
紀一郎は皆にこの土管の長さは約100メートルだと言った。
幼い子供は泣くことが心配されたが、そこは子供とはいえ雰囲気を感じているのだろう。
静かに、とても静かに流れに身を任せていた。
そして体感では二時間たったような、実際には三十分たった頃。
先頭の方で微かに爆発音が響いた。
脳裏を横切るのは紀一郎だけれど、水仙は嫌な想像を振り上げるように首を振る。
「か、頭。」
「大丈夫、もうすぐ外よ。構えなさい。」
遊女の一人が心配して声をかけてきたが、自分は大丈夫だと気丈に振る舞う。
遊女は彼女気持ちを汲み取り、口をつぐんだ。そして代わりだとでもいうように剣を強く握る。
後ろで騒ぎは起きていない。
追っ手は後ろにはいないのだろう。
つまり、前に集中すればいいわけで。
そしてついにぱぁっと目の前が明るく染まる。眩しさに目を細める水仙。
ふらりと慣れない視界で何とかその土管からでるとその場に大きな爆発音がつんざいた。
「きゃあぁぁぁぁぁっっっ!!!」
水仙の後ろにいた普通の遊女達は悲鳴をあげる。
けれど水仙はすぐに意識を取り戻し、目の前の状況を事細かに整理していく。
目の前には先程先頭にいた紀一郎を含めた5人がいた。お互い剣をもって敵と対峙し、戦っている。
紀一郎のいう通りそれなりに実力のあるものたちのようで、天人に負けず劣らずの力を発揮していた。時節舞っている美しい着物は見覚えのある前の方にいた仲間たち。
落ち着いて対処できているようだ。
けど……。
一方で自分達の前にいた普通の遊女達ははじっこで腰を抜かしている。
そのお気楽な姿に苛立ちを覚えたが、自分の役目はこういうことだったのかと思い直し、彼女たちを出口に促すためにそちらに向かった。
後ろの腕のたつ遊女達は自身の大きめの武器を仲間たちに渡したあと、戦い始める。
その姿には頼もしさを覚えながら腰を抜かす遊女達に声をかけた。
「ちょっと!早く逃げなさいよ!」
その時初めて水仙の声に気がついたのか、びくりと大きく肩を跳ねさせてすがるような目をする遊女達。