第15章 偽りの愛
「守るって、決めたんです。」
彼女の今にも泣き出しそうな声が水仙の心を揺さぶる。
彼女の手に繋がれている幼い手は彼女の生きる全てだったのだ。
「私が、約束したんです。」
彼女の過去を皆が知っているわけではない。
暗殺者(アサシン)同士の過去の詮索はある意味のタブーだったから。
けれど皆知っていた。
皆好きで人殺しなんてしてないってことを。
守るべき誰かが皆いることを。
ぎゅうっ、と鎖で締め付けられるように心が痛む。
そして同時に水仙が選択するときが遂に来た。
____分かっている。ここで言わなくてはならない答えは。そして多分皆私の答えを待っている。
自慢じゃないけれどここで一番腕がたつのは私のはず。私が戦力にならないでどうするの。
「紀一郎。」
我ながら少し掠れた情けない声だった。
けれどその声に反応した彼の瞳は奥深くに闘志を宿していて。
あぁ、きっと、きっと大丈夫だ。
きっと……。
「私たちも戦うわ。」
何を恐れることがある。
私はこの夕時雨にいる暗殺者(アサシン)の頭。
ここ一年剣を振ることはなかったが、感覚は嫌でも残っている。
「皆。」
今までここを統治してきた精神的にも肉体的にも皆の支えだった水仙の声に、遊女達は背筋が延びる。
彼女の美しい黒い双瞳に引き込まれ、彼女達も腹を決めたのか、頷いた。
「いくよ、最後の大仕事だ。」
赤い唇を精一杯つり上げる。
纏う空気は狩人そのもの。
けれど本当は不安でたまらない。
けれどここで弱音など吐いてはいけない。
出来る、きっと出来る。
そして私たちの罪を打ち明けよう。
罵られてもいい、一緒にいる道を選ぼう。
「剣を持って!皆で生きて外に出よう!」
一緒に、自由になろう。
_______家族と一緒に。