第15章 偽りの愛
「弟の紀一郎です。」
真っ黒な髪の毛のつむじを見せるくらいに頭を下げる紀一郎。
白摘草はそんな彼に懇願するように言葉を紡いだ。
「お願いしますっ……この子がっ、夏菜が助かるならっ、何でもします!」
白摘草に右手に繋がっている12歳のくらいの幼い少女の手。
「白摘草……この子は……。」
「姪なんです、姉の残した形見なんです。最後の肉親なんですっ。」
ポロポロと涙を流しながらその存在を確かめるように少女の手を強く握る白摘草。
そんな様子を見て感化された回りの皆もせき立てるように紀一郎に懇願する。
「私もっ、この子を守りたいんです。」
「何でもします、多少の腕っぷしなら自信があります!」
「どうかっ……この子だけでもっ……!!!!!」
暗殺者(アサシン)の心の叫びが水仙の胸を貫いた。水仙の心に苦いものが広がり、熱いものが同時に込み上げる。
きりきりと胸が傷むのはきっと私も彼女たちと同じだから。
あぁ、本当にここにいる皆は_____大切な人を守るために手を汚してきたんだ。
母、妹、弟、姪、甥、友。
それぞれ、色々な形で。
大切な人を守るために、自分を汚してきた。
だから、今くらいは……。
私も、本音を。
「私もよ紀一郎、何でもするわ。」
私も貴方と生きたい。
少し恥ずかしかったけれど、素直な気持ちを言葉にする。
久しぶりの真っ白な言葉。
紀一郎は肩を一瞬強ばらせたあと、泣きそうな顔をして唇を結んだ。
「ねぇ紀一郎、お願い。皆を、私を助けて。」
一緒に生きよう。
真摯な瞳が絡み合う。辺りは彼の返答を待っているかのように静まり返った。
紀一郎は一度目を伏せ、もう一度自分の回りにいるものたちを一人ずつ確認するように見る。
そして、深呼吸をすると意志のあるまっすぐな目で言葉を紡いだ。
「美都姉……皆さん……よく聞いて。……これは賭けです。
もう、夕時雨(ここ)から逃げましょう。」