第15章 偽りの愛
月の光がきらきらと夕時雨に注がれる。
遠くで鳴くのは梟か______。
一夜限りの戯れが、いつもの夜が始まろうとした______その時。
ドガァァアアアアァァァァッッッッン!!!!!
地鳴りのように激しい音が轟いた。
ぐらりと屋敷が揺れたのか、体のバランスが水仙は膝を付く。
雷じゃない、これは爆発?
反射的に頭を隠せば、一歩遅れて白摘草が同じ行動をとる。
その間も先程までとはいかないが何回も爆発音が重なった。
ドカァァァンッッ!ドカァァァンッッ!
パラパラと天井から降ってくるのはホコリではなく屋敷のカケラ。この揺れに、振動に耐えかねて屋敷が崩れ始めていたのだ。
ここにいたら、みんな下敷きに……!!!?
最悪の事態を直感した水仙は揺れる屋敷の床にしっかりと足をつけ、立ち上がる。
目を見開く白摘草を引っ張りあげ、その場から皆がいそうな場所へと歩を進めた。
隣の部屋のふすまを開ければ、同じように震えている仲間たち。
彼女達を促し、この屋敷の出口など知るものはいないが、とにかく安全なところに、と皆で廊下を走った。
ドガァァアアアアァァァァッッッッン!!!!!
「きゃあぁぁぁっっっ!!!」
ぐらり、とまた屋敷が揺れ、悲鳴が不協和音のように重なる。
そういえば、この廊下を走ったのははじめてだ。
奥まで続く長い廊下。この先は行ったことがあるものはここにはいない。立ち入り禁止区域、とでも言うのだろうか。
そこから爆音が聞こえる。
もしかして……ここに。
鋭い目をさらに細めて水仙は一歩そこに足を踏み出す。しかし脳裏によぎったのは野菊ではなく愛しい弟だった。
悔しい気持ちを一度押さえ、水仙は皆を先導し、それぞれの人質がいるところに行くことを命ずる。
女達が震える瞳で頷いたのを見届けたあと、自身も弟のところに向かった。
その間も続く爆発音に身震いしながら弟のもとに急ぐ。バランスを崩しながら、髪を振り乱して。
「紀一郎!!!」
「美都姉!!!」
自分の安息の場である部屋を勢いよく上げれば既に22歳になる弟がいた。
なかなか頼もしく、最近は春雨の実力手として名を挙げているらしい。
今もこの屋敷が崩れるということを認識し、大事なものを纏めているところだった。