第15章 偽りの愛
銀時side
「私は……生きていました。」
目の前の鴨志田は真っ青な唇を震わしながら言葉を紡いだ。長いまつげが陰をおとして儚く揺れる。
ごくりと唾を飲み込みながら銀時は拳を握った。
「ゆっくり瞼を開けると愛しい弟が私を心配そうに見ていました。いつもと変わらない天井が見えて死んでないことに驚きながら、昨日の事は夢だったのかもしれないと思いました。」
けど。
鴨志田は目に沢山の涙をため、喉を震わせる。そして、今にも溢れそうなモノを拭うことなく言葉を続けた。
「けれど確かに昨日の戦闘の傷跡は私の体に残っていました。体を起こそうとすると走る激痛。昨日の事は夢じゃない、すぐに思った私は弟に頼んで主人である男を呼んだんです。」
胸の隙間を通るように冷たい風が体を冷やす。神楽は微動だにせず立っていた。
窓から溢れるひだまりさえ凍てつく氷となるように、銀時の心も冷やされていく。
「男は何時ものように笑って私に会いに来ました。すぐに聞きました、野菊は、野菊は無事なのかと。」
膝の上で組まれた手が着物にシワを作る。
その時の事を思い出しているのか鴨志田の表情は不規則に揺れていた。
「男はそんな女知らないと答えました。有り得ないっ……そんなことは有り得ないっ!私は彼女と確かに二年間過ごした。声も表情もはっきりと覚えている。確かに普通の年頃の女の子達みたいに恋の話なんてしなかったけど……あの時間はっ……確かに。」
毒を選ぶときも。
小太刀を手入れするときも。
ほんの少しの楽しみであった簪を選ぶのも。
「……"野菊"とはそれから会ったのか。」
銀時は彼女の心がこれ以上壊れないように探るように言う。けれど鴨志田はまたくしゃりと顔をゆがめ、ついにポロポロと涙を流した。
後ろにいる四人の女も唇を噛みしめ、肩を震わせる。
慌てた銀時は近くにあったティッシュの箱を差し出した。鴨志田はそれを一瞥して、頭を下げたあと、受け取る。
「会うどころか……私たちに殺しの仕事さえ入らなくなりました。」
「……どういう事だ。」
「主人である男が私たちの前に現れなくなったんです。いつも仕事の依頼を持ってくる男があの日から……野菊と同じように消えたんです。」