第15章 偽りの愛
ピリピリと肌で感じる殺気。
頭の中で警鐘が鳴っている。
「よ、くも毒なんて盛ってくれやがっ……たな。」
何で喋られるの。
何で立っていられるの。
何で生きているの。
猛毒を飲んだとは思えない。
そう思うと同時に水仙はやはりどこか諦めと安心感を抱いていた。
けれど目の前の野菊はそうではないようで。
そんな無様な水仙を許そうとはしなかった。
「立って頭(かしら)。私は死ぬのなんて真っ平ごめんよ。そこの引き出しに小太刀がもう2本ある。」
そう言うが否や、かちゃりと野菊は小太刀を構えた。
男の瞳は毒に犯されながらゆらりゆらりと揺れる。それでも一番大きい殺気が禍々しい空気を孕んで増大していく。
その姿に水仙はぞっとした。
_____動けない。
「頭っ……!!!」
分かってる。そう言いたいのに言葉がでない。口が動かない。
ピクリとも動けない。
水仙の頭によぎる"死"の一文字。
それが目の前にちらつく。
けれど、水仙はその時それを受け入れていた____いや、その時"生"より"死"の方に魅力を感じてしまっていた。
「っ……!!」
顔をくしゃりと歪め、野菊は水仙を悔しさの称える目で見つめる。
けれど野菊はきっと水仙が動いてくれることを信じて、自分は目の前の敵に視線を戻した。
刀が揺れる。
武者震い……____いや、ただ恐れているだけ。
「あぁあああぁぁ!!!」
出来うる限りの力の最大火力。
後先なんて考えられる相手ではないことを野菊は十分にわかっていた。
大きく右足を踏み出し、高く跳んだ。
重たい着物も何のその。
ひらりとそれさえも舞わせて相手をしっかり見据えて加速して落ちる。
男は一瞬驚いたあと歪んだ笑いを表情に浮かばせた。
男は手を広げ、小太刀の刃を素手で掴む。
野菊は怯みはしたものの、すぐに危険だと判断し、落ちた勢いを利用して彼の間合いに入らないところで着地した。
舞うのは香の艶やかな匂い。
「やるな、女。」
男は楽しそうに、可笑しそうに笑った。
そしてその表情に野菊は戦慄する。
あの毒は神経毒。
少しは効いている筈なのにまだ余裕のあることに野菊は身震いした。