第15章 偽りの愛
「ひっ……!」
猛毒を飲んで死ぬどころかギラギラと怒りをにじませた目をし、睨んでくる男。
化け物……!!!
直感的に感じると同時に今回主人である男が言っていた言葉が脳裏をよぎった。
_____今回のターゲットすごく強いから水仙と野菊二人で殺してね。
______死んじゃ駄目だよォ?
その時は正直言ってることが分からなかった。猛毒に対して勝てる生物なんていないと思っていたから。
どうして二人なんだろうって、野菊と二人で顔を見合わせてその疑問を奥に閉じ込めた。
______けど、目の前にいる男はどうだ。
猛毒が効かない。
それでいてまだ立ち上がることも、毒を吹き出すこともできる。
_______こんなの、化け物じゃない。
"死"が眼前に迫ってくるのを水仙は感じた。
男の憎しみの瞳は最期の時を迎える覚悟を越した、修羅の目。
ただ者ではないことは、そこでわかった。
ましてや自分は今丸裸。
武器ひとつ持っていない。
水仙は冷静にそんなことを考えながら、どこかそれを受け入れていた。
もうこの人生にピリオドを打つのは自分ではないことを知っていたから。
人を殺して生きているものは死に方が選べるはずがない。
人殺しは人殺しに殺される、道理のかなったコトじゃないか。
水仙は迫ってくる男の手をじっ、と見つめた。
固く握りしめられたその手にはたくさんの切り傷が跡として残っている。
何回も死線を潜り抜けた証が残っている。
一撃で死ねるだろうか。
そう思いながら衝撃を覚悟し、冷めた感情を隠すことなく虚空を見つめた、その時。
「待、ちなさいっ!!!」
身軽な体を跳ねさせ、男に襲いかかる女がいた。
その声に弾かれるように上を見上げれば彼女が小太刀を降り下ろしている。
「野菊っ……!」
男はそちらに視線をよせて体を低くし、対応する。読んでいたのか、野菊はその低くなった男を踏み台にし一回転して水仙の後ろに着地した。
そしてまだ露になっている水仙の肩を掴み、自分の後ろへと追いやる。
「のぎ……く。」
「何馬鹿な行動してるんですか、死にますよ。」
気丈にいいのける野菊。
しかし、そう言う彼女の足は震えていた。
男は毒が多少は効いているのか気だるそうに、ふらりと立ち上がる。
しかし立ち上る気炎は消えぬまま。