第15章 偽りの愛
そして、二年の月日が流れた。
水仙の前の時期に入ってきた二人の暗殺者(アサシン)は心労や病気でたて続けに亡くなり、水仙が一番の古株となる。
当時、26歳。
「野菊、ここにあった簪知らない?」
「あァ……あれならこの前の殺しの血が取れなくて捨てましたけど。」
一番の新米である野菊が既に14歳。
しかし着実に人を殺し続け、今では水仙に並ぶ優秀な暗殺者(アサシン)に乗り上がっていた。
この二人は自他共に認める仲であり、何が共鳴したのか二人は日々を共にすることが多かった。
誰にも話さなかった二人の出会いがそのきっかけであったことは後に水仙が語るまで謎とされていた。
「……そういえば、家族はご健在?」
あれから野菊の方は一切人質については語らなかったが、家族だということは気がついていた水仙は時々こんな質問をしている。
その都度野菊は「変わりません。」と返答を返す。
そしてその変わらない状態こそ最高の状態だということに二人は気がついていた。
人を殺し続けて水仙は12年。野菊は2年。
人を殺しているとはいえ安寧の日々を過ごしていた二人。
そんな二人に、手練れとなった二人にある仕事が舞い降りる。
「こりゃ、お久しぶりィ。」
和やかな雰囲気のなか入ってきたのは男。
主人である男。
相も変わらず変な声と口調が苛立ちを増させていて。
「ケケケッ……!仕事だよォ、水仙、野菊ゥ。」
いつもと変わらない毒殺の予定だった。
剣の練習をしていなかったわけではない。
けれど使う機会はそうなく、使ったとしても相手は酔っぱらい。一太刀ですんだ。
なのに。
「頭ァァァァッッッ!!」
本格的な武術が必要になった暗殺。
そしてそこに迫る水仙の命の危機に、野菊はすべての能力を持ってしてターゲットを殺した。
それが始まりの音だとも知らずに。
11月18日。
彼女がここに来て丁度二年の夜のことだった。