第15章 偽りの愛
それから一週間少女_____もとい野菊は文句を言うことなく、あの時のようににらみをきかせることもなく、きちんと水仙の補佐に勤めた。
死人が出てもピクリともせず。
そしてついに今日、初任務が彼女に授けられる。組織の厄介者と言うよりは後々厄介者になると判断された罪なき者を殺害することだった。
決行はその日のうちに行われ、今まさにその相手と対峙しながら酌をしている所。
女____もとい水仙は野菊に付き添いの形として一歩引いたところにいた。
野菊はこの一週間水仙の様子をきちんと見てきたのだろう。淀みのない手つきで、笑顔を崩すことなく、男を落としていく。
そして______……。
「終いにしようか……下がれ。」
野菊が気に入ったのか水仙を下がらせようとする男。欲にまみれた目が油断しきっていることを確信させた。
水仙はそれを確認して頭を下げ、襖から出ていく。
一瞬視界の端に男のいやらしい手が彼女の着物にかかるのが見えた。
上質な着物の下から現れる無垢な白い体。
「では、ごゆっくり。」
彼女は部屋の前で殺すと意気込んでいたが、そんな事は不可能。
暗殺は誰にも気がつかれず、ターゲットを油断させてこそ成功する。
幹部しか入れない高嶺の華のような場所に入るときに警戒しないものなどいない。
部下も本人も最初はすべてを恐れ、隙を見せない。
だから、ここしかないのだ。
体を赦し、快楽に浸っている時に殺すのが一番______殺しやすい。
どのくらいたったのだろうか。
予想より長く感じられる時間が過ぎたとき、か細い悲鳴が水仙の耳に届いた。
そして鳴らされる鈴の音。
これが作戦成功の合図だった。
水仙は平静を装い、部屋に向かい、人一人いないような奥の部屋の襖を開けた。
電気のついていない真っ暗な部屋にいたのは裸の男女。
そのうちの一人は白目を向き、絶命していた。
「……初めてにしては上々。」
そっぽを向いている野菊に声をかけるように言葉を放つ水仙。
慣れた手つきで毒のはいった酒を片付ける。
行為を終えたあとの一杯、水仙がよく使っている手だった。
心のなかで成功したことに安堵を覚えた水仙はこれでまた自分の首が飛ばない事に感謝し、ぼーっと月を眺めている裸の彼女に自分の着物をかけてやる。
「初めてじゃない……。」