第15章 偽りの愛
「まぁ水仙を楽にしてやってくれ。ケケケッ。」
男はそう言うと後のことは頼んだ、と言わんばかりに背中を向けて去っていく。
さりさりと手入れの施されていない畳が耳障りな音をたて、また痛んだ。
襖がパタンと閉じられ、足音は去っていく。
女はそれを確認した後、一言も言葉を発しない少女を見つめ、言った。
「わっちは水仙でありんす。ここの"頭"、お前の最初の仕事はわっちの補佐。時が来たらまた呼ぶ。それと奥にいる一番の古株に挨拶しなんし。着物を選んでく」
「貴女も私の邪魔をしたら殺すから。」
突如少女は言葉を紡いだ。
女はピクリと眉を動かすと更に厳しい瞳をし、少女を睨む。
しかし少女は顔色を変えることなく言った。
「補佐って何するの、血に慣れることかは始めるの?そんなのどうでもイイ、血なら見たことある。私は時間がないの。ここは実力主義なんでしょ?だったら早く殺しにいかせて。殺せばいいんでしょ?前戯もいらない。部屋に入る前に殺す、それでいいでしょ。」
一度も呼吸をすることなく、言葉を用意していたかのようだった。
火に油を注ぎかねない言葉を堂々と言う姿には逆に焦りが見えて。
女はその事に気がついて妖しく微笑む。
それと同時に刃物を取り出した。
「_____生意気は役立たずだと覚えておきなんし。」
殺してもイイ、こいつはどうせ本番で自分の力を直視できず、返り討ちにあい、私達に迷惑をかける。
なに、この小娘一人で仕事がこなせないほど私達も無能じゃない。
きらりと手入れされた刃物が女の殺気に答えて哭く。
女の女とは動けない俊敏な動きに少女はついていくことができないのか、動かない。
そうして女が血飛沫が上がると確信した、その時だった。
「役立たずはテメェだよ。」
血飛沫が上がったのは女の左腕。
「ッ……!!?」
痛みと目の前にうつる血に驚いて左腕を見れば近くにおいてあったはずの簪が腕を射ぬいていた。
「貴様っ……!」
歯軋りをしながら少女から距離をおくと、少女は能面なような表情を浮かべていて。
その頬にかかった血を拭くことなく、空虚な瞳で女を見つめていた。