第15章 偽りの愛
銀時side
「今から4年ほど前でしょうか。私達のもとに彼女は来ました。」
静かに紡がれるのは流麗な旋律のような声。
一度新八が恐る恐る神楽を見たが神楽は全てを受け入れるつもりなのだろう。
春雨というフレーズに反応してしまうのは宿命とも呼べるから。
「春雨"夕時雨"そこは遊郭でした。しかし普通の遊郭ではなく、殺戮の場。
表では幹部だけしか入ることのできない高嶺の華のような場所として広まっていましたが実態は処刑場でした。」
きゅ、と鴨志田と名乗った女は拳を握る。
「普通の遊女もおりましたがそのうちの10%は暗殺者(アサシン)でした。上の命令通りに人を殺す、出来なければ人質への罰と数人の男に廻されるという地獄が待っていましたから……誰も逆らえなかった。」
そんな場所に彼女は来たんです。
女はその長い睫毛を震わせ、美しい顔に陰りを帯びさせた。
「今まで来た女と違うと一目見て分かりました。
______コイツは"殺れる"側の人間だと。
案の定その時頭(かしら)であった私に挨拶が通されました。その時彼女が言った言葉は私は一生忘れない。」
「なんつったんだ。」
銀時が問う。
女の瞳は鋭く、どこか違うとこを見つめていて。
「"貴女も私の邪魔をしたら殺すから"。」
赤い唇から紡がれたのは冷たく殺意を孕んだ言葉。
本当の殺意が漏れ出した気がして銀時の背筋に寒いものが走った。
「わっちは……私は、その時殺した人数はトップだった。その中のどの遊女より強かった。その私になめた口を聞いた。
あの場では自分の力に自惚れる者から死んでいく。だからあの子はすぐ死ぬと思ったの。それなら生への希望を抱く前に殺してやろうと思った。」
語り出される過去に疑うものは誰もいない。
それが真実、血の臭いが告げていた。
"夕時雨"
その場所にいた千里_____またの名を『野菊』。
彼女の三年間が身近にいた者の唇から、語られようとしていた。
幸か不幸か、それを初めて知るものは
真選組でも
宗でもなかった。
彼女も好んで語ろうとしない殺戮の日々を初めて知るものは
万事屋。
またカチリカチリと歯車は回る。
数多の生を巻き込んで。