第15章 偽りの愛
銀時side
「『野菊』……だと?」
軽く神楽を制したあと、銀時は重々しい口調でもう一度確認するように言葉を紡いだ。
彼の言葉に彼女たちが揃って首を縦にふる。
その瞳は弱々しく頼るところをなくした表情で。
「どういうやつなんだ。」
まだ"野菊"をアイツだと決め付けるには早すぎる。
そんなことを心の中で自身を落ち着かせるために反芻しながら問う。
すると、彼女たちの返答は意外なものだった。
「……分かりません。」
「なんだと?」
「分からないんです。」
肩を下げ、悔しさを滲ませる目の前の彼女たち。取り敢えず座れ、と手だけで促せば彼女のリーダー格であろうものだけが座り、後はソファーの横や後ろに立った。
それを咎めるのは雰囲気を乱すのかもしれないと思った銀時はもう一度聞く。
「分からないってどういう事だ。」
するとまた、同じように悲しそうに言葉を紡ぐ。
「分からない……いえ、知らないんです。私たちは彼女の事を何一つ。」
波打つ茶色の髪を後ろでひとつにまとめたリーダー格の彼女が銀時に訴える。
「本名も年齢も、出身も。知っているのは顔だけなんです……。」
ここで沸くのはひとつの疑問だ。
「そんな奴をどうして探してる。」
脳で考えるよりも早く、反射のように銀時は言葉にした。
千里が絡んでいる可能性があるからなのか、過剰に反応してしまう。
「……助けてもらったんです、地獄から。」
少し目を伏せ、何度も言い淀んだあと決心したように彼女は言葉を紡いだ。
他の女たちもそれぞれの瞳に覚悟が浮かんでいる。
「この噺は……誰にもしないでほしいんです。
私達の永遠の秘密、咎……。
赦されることじゃない。
赦されたいとも思ってない。
けれどもう、人生を壊されたくない……。
だからお願いです、どうか胸に秘めて。」
ここで銀時は確信した。
『野菊』は千里だと。
ならば知らない彼女が分かるかもしれない。
この女が語ることはきっと俺らが知らないアイツの一端。
「約束しよう。」
銀時は真っ直ぐな声で言葉を放つ。
目の前の彼女たちは小さく怯んだあと、目を細めて語り出した。
「私の名前は……鴨志田美都。
春雨暗殺集団"夕時雨"の一員。
源氏名、『水仙』。」