第15章 偽りの愛
千里side
「その可能性も否めない。だけどな、その情報を持ち寄ってきた奴等があの事件と同時に消えている。」
「えっ!?」
箸を止めて宗を凝視する千里。
宗はその視線を軽く流したあと、はー、と深いため息をついた。
「怪しいだろ。」
「……怪しいね。」
今度は千里がため息をつく番だった。
でも、と千里は思い出したように言葉を紡ぐ。
「本当にオークションが行われるか確認したんじゃないの?」
「その確認したやつも消えてる。」
貶すように吐き散らす宗。呆れと悔しさが不均一に揺れている。
「桂が近々もう一度反逆者がいないか洗いだすそうだ。それを昨日聞きにいってた。」
「ふぅん……。」
仲間を疑う、か。
そんなこと部下を信頼してる桂が好んでやるはずない。きっとそれほどまでに不味い状況なんだろう。
そんな脆い集団には見えなかったのに。
そんな一言をぐっと喉の奥に押し込んで、同時にたくわんを口にほおりこんだ。
しゃりしゃりとした感触と甘いような酸っぱいような味が口のなかに広がる。
「……大きい集団はこういうのが怖いよな……。
________仲間を疑う、そんなこと誰だってしたかないぜ。」
宗も同じことを思っていたのか苦い表情を浮かべた。
呆れる感情と一緒にちらつく心配した様子。
だからか、つい千里は睫毛を伏せ、言葉を紡いだ。
「……宗、安心してよ。私は」
「あり得ねぇから心配してねぇよ。」
言葉を途切れさせる宗。
絶対の自信と揺るぎない言い方に心が暖まる。
自然にこぼれる笑顔は許してほしい。
「……ま、こんなとこだ。ほら、メシ食え。冷めるから。」
宗は少し恥ずかしいのか目線をそらし、話題も一緒にそらした。けれど赤い耳は彼の黒髪に隠れることなく見えていて。
そんな彼らしいと言えば彼らしい一面にまた千里ははにかんだ。
「うん、いつもありがとう。」
鈴のように可憐で風のように爽やかで曇りのない声がその場に響く。
お互い口許を緩ませて。
この暖かさが永遠に続くことを願いながら。
「おいし。」
いま目の前にある鮭をぱくりと口にいれ、生きていることに感謝した。