第15章 偽りの愛
千里side
暖かな光が差し込む、少し汗ばむ季節の朝。
鳥のさえずりで起きた千里はいつも見る夢を見ることなく、スッキリとした気分だった。
「おはよう、宗。」
ふすまを開けて柔らかく微笑むと、宗は朝食を作っていた手を止めて「おはよう。」と返す。甘くて低い声に安心を覚えながら、丸机の窓側の席を取り、ひなたの暖かさを堪能した。
同時にふわりと鼻をくすぐる美味しそうな香りが千里を包む。
「ん……。いい香り。」
「残念だけどなめこじゃないぞ。」
「それはにおいで分かったから。」
お互い何気ないやり取りに微笑む。
この幸せが心地よくて。
「ね……どこにいってたの?」
恐る恐る昨日なかなか帰ってこなかった彼が何時に帰ってきたのか問う千里。昨日の夜宗は11時を過ぎても帰ってこなかった。
といってもまぁよくあることなので「捕まったのかも。」とは一縷たりとも思わなかったが。
心配していたと言えば心配していた。
興味本意といったら興味本意、たったそれだけの話。
宗も宗でこのやり取りには慣れているのか、あぁ、と呟いた後、言葉を紡いでいく。
「赤根崎家のオークションは桂が仕入れた情報だったのは覚えてるな?」
「あー……そういやそうだった……ケド。あれ、結局行われちゃったの?」
だとしたら私たちは奴隷として捕まっていた彼らを救えなかったことになる。
最低なことに自分のことしか考えていなかった千里は自分のふがいなさに今更ながら唇を噛んだ。
すると宗は静かに首をふり、思案しているのか厳しい表情を浮かべる。
「宗……?」
不思議に思って彼の名を呼べば小さく宗はため息をつき、「わかっていることだけ。」と前置きをつけてから話し出した。
「実際、オークション行われる予定はなかったらしい。」
「え。」
「桂が嘘をついたんじゃない。桂の部下が嘘をついたらしいんだ。」
間一髪をいれずに言葉を続けた宗。
桂のせいではないと遠回しに自分に伝えてくれていることが千里にも分かった。
だからそこには触れず、もうひとつ気になったことを問う。
「う、嘘をついたとは限らないんじゃ……。間違えちゃったとか……ほら、それこそ嘘の情報をつかれた、とか。」