第14章 【幕間Ⅱ】雪螢と雨龍の会話
『憎む相手が居なくなったこの場所に私の望むものがもうないの。』
震える声で、それでも言いきる雪螢。
悔しさと無念さが交錯する痛々しい声。
雪螢の愛した男_____九条晴康。
彼は約415年前に村崎家に殺された。
村崎家____それは、雪螢の先代主君サクラによって滅ぼされた伝統ある家。
『サクラの願いだから一緒に今までやって来た……けれど、やっぱり憎しみは薄れてきてるわ……。』
サクラの願い。
それは、"千里と共に戦うこと"。
『そう……か。』
なぜそんな願いを残したのか。
それは雨龍と雪螢しか知らないことだった。
宗も、もちろん千里にも言えていない秘め事。
『なんとか、彼女の復讐が果たされるまで乗りきりたい……けれど雨龍、お願いかあるの。』
真摯な瞳で雨龍に訴えかける雪螢。
その奥深い知性の宿る視線に身震いを覚えながら雨龍は頷く。
雪螢は安堵の表情を見せたあと、自身が作り、宿っている刀を一瞥し、言葉を放った。
『もし宗の身に危険が迫り、彼が千里に全てを託してしまったとき_____』
雪螢はここで言葉をつまらせ、躊躇う。
しかし心の奥底にある哀しみを凪ぎ払うように首を降り、雨龍に高らかに宣言するように言った。
『私を、貴方と共に逝かせて。』
はっきりと雨龍が息をのむのが雪螢には分かった。しかし彼女は後悔の無いように息継ぎをする暇もなく言葉を続けていく。
『もし復讐が果たされず、宗が死ぬと決めたとき貴方は彼と共に死を選ぶ。そしてきっとその時宗は千里を遺す。えぇ、分かる。私にはわかるのよ。貴方は"死を選ぶ"。私と千里を生かすために"死を選ぶ"。』
鋭い目に透明なものがまた浮かぶ。
『自分を犠牲にしてまで、千里が逃げる時間を稼ぐつもりでしょう。』
雨龍は否定も肯定もしない。
だけれどその沈黙がある意味肯定を示していて。
『そして彼女を一人にさせないために私を残していこうとしている。あわよくば復讐を果たさせ、彼女の深い深い呪縛を取り去り、"憎しみの最果て"に来ないようにしたい。』
『……。』
『雨龍…。私は知っている。宗は1度死んでいることを。そして貴方の力で生き長らえていることを。そして彼もまたそれを理解していることを。』