第13章 傷と罰
千里side
「あれ、神楽ちゃんいない。」
銀時を中に残して外に出てくるといるはずの神楽がいなかった。不思議に思いつつ視線を目の前の机に移せば"酢昆布買ってくるアル"と書かれたメモが見える。
「酢昆布……そんなものが好きなのあの子。」
自分を棚にあげ、そんなことを呟く千里。同時に彼女たちの生活感が垣間見えたきがして唇をほころばせた。
「でもそろそろ帰らないと……。」
うーん、と顎に手を当てて悩む千里。
今の時間は午後6時。宗が帰ってきていたとしたらそろそろ心配するだろう。
過保護だから。
ひとつ笑ったあと、千里は辺りをキョロキョロと見渡した。お目当てのものを見つけ、ひとつ拝借する。そしてそこに、彼女等へのメッセージとしてさらさらと美しい字を書き連ねていった。
"また来ます。サクラ"
神楽は首をかしげるだろうが、きっと銀時は気がつくだろう。千里はそんなことを思いながら足音をたてずに静かにその家をあとにした。
薄暗くなってきた空に浮かぶ一番星。その星に小さく祈りを込めて千里は歩いていく。
時々すれ違う家族たちの愛を横目に。
時々すれ違う恋人たちの愛を横目に。
羨ましさだけではなく暖かさを抱きながら、彼女は帰路についていく。
銀時side
「千里帰っちゃったアルか!?」
扉を開けて帰ってきたのは神楽。そしてすぐに銀時のいた部屋のふすまを開け、入ってくる。
微かな足音だったが帰っていったことに気がついていた銀時は「あァ。」と軽く返事をした。
「なんで止めてくれなかったアルか……。」
「おめェこそ、何してたんだ。」
「酢昆布買いにいってたアル。」
「客おいていくか普通。」
はー、とため息をつきながら心底残念そうな表情を浮かべる神楽をよそに銀時は立ち上がりその部屋を出た。
そこであるものに気が付く。
「神楽ー。」
だるそうではありながら多少の軽やかさを感じる声に神楽が振り向けば、銀時は一枚の紙を握っていた。
「サクラは千里だろ。」と言われその文字を読む神楽。するとパアッと表情が明るくなり、輝くような笑顔を浮かべる。
通じたと、思っていいか?
銀時も淡い期待を抱きながら優しく微笑んだ。