第13章 傷と罰
銀時side
あれから少しして、落ち着いた銀時は彼女を離した。暖かな熱と仄かな香りが逃げていく。しっかりと瞳を交わらせれば、透き通るような儚さを漂わせた彼女の瞳があった。
「落ち着いた?」
桃色のぷっくりとした唇から紡がれる言葉。
それに軽く肯定の意を示した後、銀時は気まずそうに「わりぃ。」と頭を下げた。
彼女はきょとん、とした顔をすると柔らかく微笑んで首を横にふる。
「平気。怖くなかったから。」
「でも、その……。」
「白夜叉様は嫌がってる女を襲うほど畜生じゃないでしょ?私を止めてくれたんでしょ?もとはといえば私が悪いんだから。」
平気。
再度呟くように言う千里。
その後自分の肩に視線を寄せ、切なそうに眉をひそめる。銀時もそんな彼女をじっ、と見つめた。
何か言うべきなのか迷いながら、ひとつため息をつくように息をはき、今度は体を彼女に対して後ろに向くようにする。
「……白夜叉様。」
「着替えろ。」
「いや、出てっては貰えな」
「出てかない。」
「なんで。」
理由はない。
今はまだ傍にいたい。
銀時は彼女に聞かれないように小さな声で言葉を紡いだ。
やはり彼女には聞こえなかったようで少し間があったあと、「見ないでくださいね。」と1つ念をおされる。
そして衣切れの音が聞こえた。
パサリ、という少し大きな音がしてから、時節しゅるしゅると軽い音がたつ。
銀時は目を瞑った。
背中に人がいる温もりを感じながら彼を思い出していた。
今何をしているのか。
そんなこと、銀時は知らない。
ただ彼が憎み続けることで自分を保ち、生き続けていることは分かっていた。
アイツの片方の瞳には俺はどう映っているのか。
臆病者か。裏切り者か。
それとも______……。
「白夜叉様。」
その時、凛とした声が銀時の思考を止めた。
振り替えれば前と似たように男物の地味な着物に袖を通した千里。
髪型は縛り直したのか、先ほど乱れた部分は元に戻っていて。
「……出てってもいい?」
問うように彼女は言葉を紡ぐ。銀時は一瞬ぼぅっとした後、ゆっくり縦に首を降った。
彼女は銀時を訝しげに見た後、銀時を追い越し、ふすまを開けて出ていった。
一人にしてくれたのは気遣いなのか。
若ぇのに気が利くもんだ。
銀時は自嘲気味に微笑んだ。