第13章 傷と罰
銀時side
悲痛な声で訴える千里。
憎しみを越えた憎しみがその場の柔らかな空気を消し去り、憎悪を孕んでいく。
______消えない傷。
千里は克明に、こんなところにソレを残していた。
「……千里。」
かすれた声で彼女の名を呼べば、彼女の瞳から覇気が消え、切なさが募る。
それでもなお、奥底に眠る憎悪は消えないまま。
なんとも不思議な感覚が銀時を襲った。
覇気がないのに殺気はあって。
殺気があるのに慈悲がある。
幾つもの感情が織られ、数えきれないほどの痛い過去と経験が彼女をそう浮かび上がらせているのか________……。
暫しの間、沈黙がその場を支配した。
銀時の左手は千里の右手をつかんだまま。彼女はもう一方の手で着物をかき集めたまま。
外の暖かな空気でもなく、冷たい風が流れたわけでもない。
それぞれの感情が混ざり合う。
先に口を開いたのは銀時だった。
「……悪ィ。」
自分を諭すように言葉を紡ぐ。
その言葉に彼女はピクリと肩を揺らしたあと、銀時を見つめた。
大きな黒い瞳が涙に濡れて光に反射する。
銀時はそんな弱々しい千里の着物を肩まで引き上げた。
帯は絞めていなかったので、脱ぎかけのような状態には変わりはなかったが。
そして銀時は紅い瞳を千里に向ける。
二人の視線がまっすぐに交わった。
銀時の唇が動く。
「隠さないでいい。」
「……ぇ…。」
驚いたように銀時を見上げる千里。
銀時は着物の上から傷のある場所を優しく撫でた。
「……汚いわけ、ないだろ。」
銀時は手のひらを背中に回し、思いきり彼女を引き寄せる。
反射に近かった行動は彼の琴線に触れた証だった。
千里が息をのむ。
銀時は唇を噛みながら脳裏にある人を浮かべていた。
"皆を守ってあげてくださいね"
"約束、ですよ"
______何が約束だよ、先生。
______先生も俺にとって大切な人だったのに。
喉まで込み上げた言葉をまた押し込む。
微かに視界が歪んだ。
「白夜叉……様……?」
千里の戸惑う声が銀時の耳に届いた。
頭の裏が鈍器で殴られたように熱くなる。
込み上げてくる酸っぱいものがきりきりと喉を痛みつけて。