第13章 傷と罰
千里side
あれから、一時間後。
きゃんきゃんと吠え合い、笑い合った後、千里はもとの自分の服に着替えていた。
加齢臭がするといったがあれは嘘で。
心地よい柔軟剤の香りが体のそばから離れていく。微かに血の臭いに勘づいてしまうのは野暮なことだろう。
「……。」
楽しかった……久しぶりに。
そんなことを思うのはおかしいのだろうか。
けれど、それが確かな本音で。
神楽ちゃん。
小さく彼女の名前を呼ぶ。
そして心の芯が震えた。
神威に似ていた。
そんなことを思うのはおかしいのだろうか。
似ているようで似ていない二人。
似ていないようで似ている二人。
確実に背を向けているはずなのに、お互いの背中と、手を、温もりを、求めている気がしたのは自分の境遇と重なるところがあるからだろうか。
兄妹喧嘩は、兄妹がいて出来る。
そんな当たり前の事に二人が気づくのはいつだろう。
ズキンッ、と火傷の古傷が傷んだ。
着替えるときに嫌でも目にはいるソレは忘れたいものの一つだった。
そして、自分の意思を固める呪いであり、約束でもあった。
今日は久々にその傷を撫でた。
千鶴との想い出をよみがえらせるように。
ゆっくり、ゆっくりと千里は撫でた______……その時。
ガラッ!
勢いよく、襖が開いた。
驚いて振り向くと、そこには銀時が呆然として立っている。
「な、なにっ……!!?」
着替え中に失礼じゃない!
そう怒ろうとして口を開きかける千里。
しかしそれは、言葉にならなかった。
彼の視線が自分の傷に注がれていることに、気がついたから。
着物を手繰り寄せ、その場に座り込み、必死に傷を隠す。
しかしそれでも時すでに遅し。
銀時は真っ白な顔で唇を震えさせながら、近付いてきた。
「やっ……!……来ないでっ!」
彼の手が千里の着かけの着物に伸びる。
しかし千里は驚きと、彼の瞳の意味が分からなくて困惑し、力がでない。
なすすべなく、その傷の部分が灯りにさらされた。
浮かび上がる皮膚がただれた火傷の跡。
しっかりと、くっきりと、千里の肩にあるソレは背中の真ん中まで及んでいた。
「……っ……!」
銀時が息をのむ。
千里はそんな銀時を潤んだ瞳で見つめた。