第11章 それは慟哭の鐘
千里side
唇が重なる。
「んぅ……!?」
目の前には端正な神威の顔。
キスされていると気がついたのは、少しフリーズした後のことだった。
神威の長いまつげがしっかりと伏せられているのを見て事故ではなく、意思を持っている行動だと実感する。
キスは初めてじゃない。
けれど久しぶりだってせいで息の仕方が分からない。
どうしよう、千里は眉根を寄せた。
力を込めても神威に敵うわけがない。
しかし神威はそれ以上、千里を求めることをしなかった。ほんの少しだけ押し付けられ、柔らかくゆっくりと彼との距離は離れていき、唇と唇の間が少しだけ空く。
「またね、千里。」
ただ、そう呟いて。
その瞳もその声も魔性のように麗しい。
神威は優しく微笑む。千里は神威らしからぬ表情に驚いた。そんな驚きで一杯の千里を嘲笑うように、神威は地を蹴って視界から素早く消える。
呆然と目を見開いたまま今の行動の意味が分からない千里は返事をせず、それを見送った。
「え、ちょ……神威っ!?」
少し遅れて同じように屋根を上れば夕暮れに染まる神威が微かに目に入る。
胸の鼓動は少しずつ高まると共に、顔も赤く染まっていった。
「な、なにしに来たのよ……。」
とゆうかどこで私の所在を掴んだの?
そんな疑問は解消されぬまま、彼は消えていく。
「……そういえばネックレス無くしたっていってたっけ。」
花言葉が"敵意"の花だったっけ……。
千里は自分の指先を唇に持っていく。
暖かさは既に無くなっていた。
けれど頬の暖かさは消えない。
『またね、千里。』
耳に神威の言葉が甦った。
その言葉に背中がむずむずして。
「……またね、神威。」
次会うときはいつになるだろうか。
出来ることなら敵じゃないことを祈る。
千里は肩をすくめ、目を細めて、その場から去るために背を向けた。