第11章 それは慟哭の鐘
千里side
その瞳も、その顔も片時も忘れたことなんてない。
反射的に千里は"雪螢"を呼んだ。
「来て!」
刀に生気が宿り、主人の思いに呼応して"雪螢"は神威を襲った。鋭い斬撃は神威の顔のスレスレを通りすぎる。そして、その刀を神威はいとも簡単に握った。
「なっ……!」
「うわぉビックリした、意外に早いや。さすがだねー。」
切れ味は落ちてない。
何で持てるの!?
「離して!指が無くなるわよ!」
「殺ればイイじゃん。ダメだよ、戦ってる途中に相手に情けをかけちゃ。」
そんなとこも変わってないや。
そう言葉を続ける神威。
千里はそれを聞いて、思いっきり刀を横にふる。
コイツに手加減できるほど私は強くない!!
「……っく……らぁっ!」
腹の底から声をだし、躊躇いをふりきるように全力で刀を振った。
その刀は空を切る。
同時に自分の体はガクンとまた落ちていった。予測できていた千里は"雪螢"を逆手に持ち、地面に突き刺すことで落下のスピードを落とそうとする。
それが上手く嵌まり、千里は綺麗に着地することに成功した。
神威が手を引いてくれなきゃ、ヤバかった。
そんな思いを押し止めながら、未だ壁に手をかけてぶら下がっている神威を睨み付けた。
「どうしてそんな目をするのさ。俺は君に会いに来たのに。」
「……。」
「遊郭やめちゃったんだね。拠点がなくなっててホントにビックリしたよ。」
どこかにいくなら俺のところにこればよかったのに。
ちゃらけているのか、それとも真面目なのか、相変わらず読めない表情で神威は微笑む。それを見て千里は刀をゆっくりとおさめた。相手の唇が少しだけひきつる。
「あれ、どうしたの?」
「安心して、なめてる訳じゃない。」
「ならどうしてよ。殺ってる最中にそんなことしたら殺されちゃうよ?」
「アンタが私みたいな弱者を殺して楽しむ性格じゃないでしょう?」
「そんなのわかんないじゃん。いつ気が変わるかなんてさ。」
そう言うが否や地面に神威が着地する。
膝が軟らかく畳まれるのを見て夜兎の身体能力の高さに顔をしかめる。
その視線に神威は気がついたのか、また微笑む。そして一歩、彼は踏み出した。
アクアマリンの瞳を閃かせながら神威は千里の頬を右手で撫でる。