第11章 それは慟哭の鐘
千里side
一方、千里はいつもの場所に帰ろうと足を動かしていた。しかしいつもとは違いその表情は重くはりつめている。
誰かにつけられてる。
気がついたのは先程角を曲がったときだった。いくつもあった足音がひとつに絞られ、それが減らなくなったとき。宗ではないことは確かだ。
「……っ……。」
冷や汗を額から流しながらどうするかを考える。隠れ家は知られては困るため回り道をする他ない。
しかし千里が恐れていることはそれだけではない。
_________強烈な殺気。
刺々しく禍々しい殺気。
狂気を孕み、殺戮を求める血に濡れた匂い。
真選組ではない。幕府の者でもないだろう。
殺しに来てる。
瞬間、千里は思いきり足に力を込めて地面を蹴った。
ざりっ、という激しくも軽い音がその静かな空間を裂くように響く。
空中で回転をして屋根を飛ぶようにして振り返らずに千里は逃げた。
それをつたって上に逃げる。
それでも。
「嘘っ……!」
後ろの影も大きな服に身を包みながら、追いかけてくる。千里より俊敏に、華麗に、余裕のある跳躍。千里が何回かつたってきた棒を使うことなく千里の前に現れた。
一瞬だけ背筋に震えが走り、見とれる。
それをあちらは見逃さなかった。
「っ!?」
素早く蹴りこまれる足。
避けるのに必死で体のバランスを崩す。
「しまっ……!」
しかも運悪く、下には体制を戻せるような遮蔽物はなく、手をつける壁もない。
_______落ちる。
せめて痛みを軽減しようと受け身をとる。
足から落ちるのは、この高さではキツイ。
肩を入れ、衝撃を待ち、脱臼ぐらいですむといいなとのんきなことが頭をよぎった、その時。
「あれれ、もうおしまい?」
懐かしいような、甘い甘い声を耳がとらえた。驚きでそちらに顔を向ければ、体が重力に逆らってガクンと止まる。
_______どうして。
その言葉は声にはならなかった。
その代わり目の前の彼は口角を上げ、あのときと同じように楽しそうに笑った。
自分の手は彼に引っ張られている。
『思い出を頂戴。』
彼の残した言葉が耳に甦る。
_______どうしてここにいるの。
「久しぶりだね、千里。」
________神威。