第11章 それは慟哭の鐘
沖田side
久しぶりの見廻り。
その帰りに沖田は家の影で微動だにしない神楽を見かけた。
声をかければ無視され、顔をこちらに寄せれば……驚いた。
彼女は泣いていた。
眉を寄せて、怒っているような顔でポロポロと涙を流していたのだ。
「何で泣いてるんでィ。」
戸惑いを隠すように問い詰めれば、神楽は肩を跳ねさせ、顔を隠すように俯いた。
しかしその肩は震えている。
「チャイナ、何があった。」
いつものように毒を吐く雰囲気ではないことに気がついた沖田は神楽の背中をさすった。
ごく自然な動作で、誰も気にかけるものはいない。
しかしなお、彼女は何も言わないで肩を震わせている。
「チャイナ。」
もう一度、彼女のあだ名を呼ぶ。
先程より強く、届くように。
するとやっと神楽は上を向いた。
涙がまたひとつぽろりと頬を伝う。
「……サドはっ……。」
かすれた声で沖田のあだ名を呼ぶ神楽。
沖田も彼女の瞳を見つめながら、
「俺は?」
と、繰り返した。
駄々をこねる子をあやすように辛抱強く次の言葉を沖田は待つ。
そして、神楽は一度手で涙をぬぐったあと、はっきりと言った。
「サドは、間違ってないアル。」
_________沖田は目を見開いた。
真っ直ぐな声に背筋が震える。
「間違ってないアル。」
もう一度、神楽自身がその言葉を確かめるように呟く。沖田の心の奥の部分がハッキリと強く脈を打った。
ひもがほどけるように、氷が溶けるように、単純な思いが剥き出しになる。
「……いきなり、なんなんでィ。」
そう質問すると、神楽は首をかしげて「分からないアル。」と言葉を紡いだ。
よくみると、スッキリしたのか涙は止まっていて。
「相変わらず意味不明ですねィ。」
「サドに言われたくないネ。」
神楽はそういい終えるが否や、沖田の顔の前に酢昆布を差し出した。
沖田は今一度驚いたあと、いつもの意地悪な表情ではなく、暖かな表情を浮かべながらそれを受けとる。
神楽はそれを確認しながら、唇をほころばせた。
空は赤く染まり始め、肌に優しい風が薫る。
こんな暖かな日々が訪れますように、沖田は心のなかで小さく祈った。