第11章 それは慟哭の鐘
神楽side
息を飲んで彼女を見つめる神楽。
このままじゃ、彼女の視界に入る。
うまく回らない思考から抜け出すように、神楽は家の影に隠れる。そしてドキドキと収まらない鼓動を沈めようとしながら、また彼女を見上げた。そしてハッとする。
……なんでそんな、そんな顔……。
寂しそうに、切なそうに目を細める千里が神楽の瞳に写った。まるで追憶のカケラを広い集めようとするような、そんな姿。
神楽の胸のなかに切なさが広がる。
もしかしたら。もしかしたら。
そうして神楽は思った。分かってしまった。
ぎゅ、と心臓が絞られるような痛みが神楽の中を駆け巡る。視界が熱いもので滲む。
するとその瞬間、彼女は地上に舞い降りた。
柔らかく、無駄のない動きを不審に思うものはいない。
止めた方がいいのか?
今声をあげれば真選組は気がついて彼女をとらえるんじゃないか。
そんなことがぐるぐると頭のなかで回った、その時だった。
彼女の目の前を二人の男女が通りすぎたのだ。無意識なのだろうか、はしゃぐ二人を彼女は唇を噛んで見つめている。
そしてそんな彼女の姿を神楽はポロポロ涙を流しながら見つめていた。
そして、
「バイバイ、総ちゃん。」
その一言が聞こえたとき、神楽は確信した。
違うんだ、アイツは。
本当は戦いたくなんてないんだ。
けど自分の心に嘘はつけないから。
憎いって気持ちも、好きって言う気持ちもうまく表現できないだけなんだ。
似ているんだ。
「……兄ちゃん……。」
自分が幼い頃、自分をおいて出ていった兄、神威。
親殺しの風習を守ろうとした馬鹿兄貴。
けど大好きだった。
今でも大好き、あの頃の優しい兄ちゃんに戻ってほしい。
それが本心だ。
でも頼むだけじゃダメなことなんてわかってる。そんな簡単なことじゃない。
それと同じなんじゃないか。
「チャイナ?」
そう思っていると、目的の人の声が近くで自分の名を呼んだ。はっとして肩を張らせ、千里がいたところを見れば、もう誰もいない。
「チャイナじゃねぇか。」
声が出なかった。振り向くことも出来ない。
対して、何も言わない神楽を怪しく思った沖田は神楽の肩を引っ張りこちらに顔を向けさせた。
沖田が息をつまらせ、驚いたのが神楽も伝わる。
カッコ悪い、神楽はそう思った。