第11章 それは慟哭の鐘
神楽side
別にお見舞いにきた訳じゃない。
そう言い訳を重ねながら、神楽は真選組の屯所に歩を進めていた。
手には酢昆布を幾つか握りながら、いつもより小さい歩幅で地面を蹴る。
______あの日からサドは変わった。
そよ姫が誘拐されて、あの女と再会したあの日から。
長い黒髪に儚気な睫毛、柔らかそうな唇に大きな黒目。そして醸し出される罪の意識。
あの女、三谷千里にあってから。
あの女が彼らの大切な人であったことは、そよ姫を助け出してから神楽は知った。
なんで真選組の大将達の大切な人が攘夷浪士になんかなっているのか。
いろいろ合点出来なくて神楽は銀時に何度も問うた。けれどいつもはぐらかされてしまう。他の人に聞いたこともある。けれどだれも、神楽に彼女の正体を教えてくれなかった。
そしていつからか、彼女への敵対心が芽生えた。
いつも沖田が座っていたベンチに彼はあの日から来なくなった。
いつもサボっているはずの沖田を町中でよく見かけるようになった。
なぜか、胸が苦しかった。
苦しめている張本人が沖田の最愛なのだと勘づいたときから。
早く捕まって処されればいい。
そんなことを思っては、彼女をかばおうとするそよ姫をみて悲しんで。
何度も自分は彼女とあっているのにそれを沖田に伝えないのは、沖田と彼女が想いを伝えあってしまうのを恐れているからで。
相反した感情が自分の情けなさと一緒になって、神楽を苦しめ続けていた。
けど今日くらいは。
立場を忘れてライバルとしてお見舞いにいってもいいんじゃないか。
沖田が怪我をしたと聞いたとき、神楽は千里に怒りがわいたのと同時に安堵した。
これでもしかしたら沖田は本当に敵として彼女を認識し始めるんじゃないか、と。
ダメ、とその場でぎゅっと神楽は目を閉じた。
こんな汚いことを思っている自分が怖くて、現実から目をそらすように。
一度落ち着こう、そんな風に思って。
そして今一度、瞼をあげ、前を見た。
それだけじゃ不安になって空を見上げる。
その時だった。
神楽はアクアマリンの色をした目を大きく見開いた。
たまたま視界に入ってしまったのだ。
心配そうに肩を落としながら、屯所の方に視線を寄せる屋根の上にいる女を。
美しい黒髪を靡かせる千里を。