第11章 それは慟哭の鐘
千里side
「かつらー離してよ。」
数分後、耐えきれなくなった千里が苦言を吐いた。その表情はいかにも不機嫌です、という感じで。
「悪かったな。」
「髪の毛はいい香りがしてたけどさ。」
桂は腕の力を緩めるとするりと彼女は腕の中から抜け出した。
そしてある方向を指差す。
「あの……なんだっけ?エリザベス?いたから。」
「あぁ……忘れてたけどな。」
桂はおもむろに水を飲む。
気がつかなかったが喉は乾いていたようで、するすると桂の喉を水は潤していった。
「ね、桂。」
突然、千里が声をかけてきた。
「何だ。」と返せば彼女は視線をこちらに向けることなく、言った。
「私、アンタのこと少しだけ信頼してあげる。」
「……え。」
「仕事上だけどね仕事上。」
フイっと首を横に向ける千里。
髪の間からのぞく耳が赤く染まっている。
ばつが悪いのか、それとも照れているだけなのか。桂の見えないところで千里は唇を尖らせていた。
桂に笑いが込み上げる。
不器用な信頼に対する嬉しさが笑顔という形になって広がった。
「それは頼もしい。」
桂がそう言えば千里は桂の方を向き、小さなピンク色の舌をべーとつきだした。
その姿を見て苦笑する桂と、表情を変えないエリザベス。
そしてそのとき、店についている時間切れの固定電話が鳴った。