第11章 それは慟哭の鐘
桂side
そのは儚気な姿も。
その奥に飼う猛獣も。
友を友と認めぬくせに、そうやって何気ない優しさも。
「千里。」
気がついたら彼女の名を呼んでいた。
彼女は歌っている途中にも関わらず、こちらを向いて首をかしげた。
桂はそんな仕草に胸をヒリヒリと痛ませながら、腕を引っ張る。
「うわっ!」
いきなりの勢いにバランスを崩す千里。そのまま重力に逆らうことなく、桂の腕に飛び込む形になる。
千里の目の前に桂の胸板が広がった。
「か、かつっ……!」
驚いて離れようとすると、無骨な手が頭を押さえた。おかげで千里は桂から離れられず、すっぽりと桂の腕のなかに留まる。
「ちょ、なにっ……ッ!」
千里は抵抗をするように体をよじった。しかし、桂がなにも言わず千里の肩に顔をうずめると、彼女はなにか感じたのか抵抗をやめた。
その代わりにため息を一つついて、おとなしく腕に抱かれる。
その場には歌いかけの曲がむなしくながれる。画面には海が広がっていて、いかにも使い回しな映像が流れていて。
"声にならない叫び声が"
"胸のなか震えてるんだ"
"分かってる"
"だから戦うよ"
桂の耳に微かに彼女の紡ぐ歌の歌詞が聞こえた。その内容が胸のなかに落ちていく。
千の星が胸のなかで輝き、溶けていく。
"今は一人じゃない"
"胸が熱いよ"
"力なら君にもらった"
"守り抜くために戦うよ"
桂は腕に力を込めた。
「ぐぇ。」と千里の女らしくない声が腕の中からくぐもったこえで聞こえる。
それでも彼女は抵抗せず、ただ桂の目の前の着物をぼぅ、と見ていた。
桂はそんな千里の肩から頭をあげ、千里の髪の毛を掬った。柔らかな細かな髪がさらさらと桂の指からこぼれ落ち、靡く。
「綺麗な髪だな。」
「あんたに言われると嫌味にしか聞こえないんだけど。」
吐き捨てるように言う千里。
照れが無いところに少々呆れつつ、おかしさが桂に込み上げた。
「そりゃ俺はダイ○ン使ってるからな。」
「美容院行かなくてもサラッサラなワケね。」
相手も退屈になったのか細くて白い指で桂の髪をくるくると弄ぶ。
巻く角度を変える度に桂の髪はカラオケの柔らかな光に照らされて揺れた。