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儚さゆえの愛しさで【銀魂】

第11章 それは慟哭の鐘



千里side

________なんて、知りたくもないけど。

フッと自嘲的に千里は笑った。
人の過去は詮索しない、そう決めているのに。
必要なとき以外は。

じぶんの過去を話せといったら話せない。
それなのに聞くのは失礼だ。

ぎゅ、と着物を握った。
しわがよる。

眉も苦しげに下がり、瞳は揺れる。


「お通ちゃんなら知っているか?」

と、その時。
桂がこちらを見ることなく、あるものを渡してきた。手の中にあるのは綿で作られたハンカチ。紺色をした綺麗なハンカチ。

「は……?」

「それともなんだ、アニソンとかなら知ってるか?ドラ○もん。」

「ちょっと、これなに。」

話をそらそうとする桂の腕をぎゅ、とつねる。口調は荒々しく、心外だとでも言うような表情を千里は浮かべていた。

桂は腕の皮膚をつままれているのにも関わらず、相変わらず視線を会わせることなく言った。

「見ればわかるだろう。」

「何をどう勘違いしたらそうなるワケ?」

こっち見なさいよ。

今度は長くて艶やかな髪の毛を引っ張る。

あ、剥がれないヅラじゃないんだ。

そんな言葉を押し留めながら、「痛っ。」と小さな悲鳴をあげ涙を浮かべる桂と目を合わせた。

その瞳には少し顔色の悪い自分が写っていてハッとする。

「……また、間違えてしまったか。」

眉を下げ、困ったように肩を竦める桂。
その瞳のなかには優しさが見え、千里は息をつまらせた。
しかしそれに気がついた桂は噺をそらそうと無理矢理彼女の手のなかにハンカチを包ませた。そして何事もなかったかのように語り始める。

「生憎、俺は同門のように女慣れはしていないからな。」

「……白夜叉のこと……?」

震える声で返せば、桂は空笑いをして寂しそうな顔をした。切な気な表情が長い髪と調和して、儚く弱々しくなる。

「……ごめん。」

過去を詮索してしまったことに気がついた千里は俯き、謝った。
しかし桂は首を横にふり、

「幼少期を思い出していただけさ。共に戦っていたときのことを。」

と言葉を紡いだ。

「大きな喪失があった。正直忘れたかった。」

けど、と言葉を繋げる桂。
その瞳に迷いはなかった。

「一瞬たりとも忘れられなかった。」

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