第11章 それは慟哭の鐘
千里side
「ヅラじゃない、桂だ!」
「うっさいな黙れハゲ。」
ただ今午前10時。
宗が外出していることをいいことに、千里は桂と会っていた。
朝起きてリビングに行ったところ机の上のメモに"出掛けてくる、昼まで帰らない"と雑な字で書かれていた。
紛れもなく、宗の字だ。
こういうことは多々あるのでなんとも思わなかったが、千里は暇すぎて知り合いと呼べる知り合い、つまり桂を呼びつけたのだ。
彼はすぐに来て、今はカラオケボックスに二人きり……は千里が顔をしかめて嫌がったのでエリザベスと三人でいる。
仲良くなった、というわけではなくただ暇だから、と千里は解釈している。
ふぅっと千里はため息をついた。
室内の少し暗めな光が三人を照らす。
机の上にはコップに水滴のついたオレンジジュースが載っていた。
氷が溶け始めたのか、からん、という小さな音をたてて氷が傾く。
「せっかく来たのに千里は歌わないのか。」
すると桂はいまだ片手にマイクを持ちながら問うてきた。
いや、そう思うならその握りっぱなしのマイクを放してくれません?
心のなかで悪態をつきながら桂に「好きなだけ歌っててください。」とあしらう。
桂は一瞬だけ寂しそうな顔をしたあと、すぐに曲を入れ始めた。
こんな緊張感のない攘夷浪士がよく真選組に捕まらないものだと違う意味で千里は尊敬をする。
彼の横顔は端正でありながら、無邪気さも溢れており、この男に勝てない理由がわからないほど。
伝説と呼ばれた四人のうちの二人に千里は会ったが、正直彼らほど掴みにくいもの達は初めてだった。
私利私欲に溢れているわけでもない。
だからといって志を、信念を失ったわけでもない。
偏食で鼻くそをほじる。
ロン毛で女装を得意とする。
天才と変人は紙一重とはよく言ったものだ。
この二人は当てはまりすぎる。
「HEY!HEY!some like heart!」
隣で髪を振り回しながら歌いまくる桂。
後ろでエリザベスが"ビブラートです、桂さん"と意味不明なアドバイスをしている。
この人たちは、何で戦ったんだろ。
ふと、千里のなかに疑問が浮かんだ。
彼らのように人に明るさを与えれるものがなぜ、戦いの道を選んだのだろうか。