第10章 重なる影
土方side
甘えることをよしとしない彼は、千里を逃がしたあと、誰かに助けを求めることはしなかった。
しかし今、赤ん坊のように時々しゃっくりをしながら涙を流す沖田。
普段だったらこんなことは絶対にしない。
ましてや、とっつぁんの前でなど。
どれだけこいつが本気だったか。
どれだけこいつが過去を悔いていたのか。
どれだけ不安が付きまとっていたのか。
甘える対象を失った沖田にとって、泣ける機会など存在しない。
泣くはずもない。
しかし今、現に彼は泣いている。
次は、失敗は許されねぇ。
土方はゆっくりと鋭い目で虚空を見つめた。
そこにはなにも存在しないはずだが、射抜くような視線。
拳を握りしめ、しっかりと______。
千里奪回のために_______。
この際そよ姫が内緒で会っていたことを咎めるつもりはない。
今どうするべきかを考えなくては。
土方は躊躇いがちに沖田の背中に手を伸ばし、軽くさすった。
自分が二人の別れに関係していることも重々承知で嫌われていることもしっている。
けれどそれでも。
土方が触れれば一瞬だけ沖田の肩が跳ねた。
しかしなにも言わずに、彼はそれを受け入れた。
山崎side
こっそりと三人の話をうかがっていた隊員達はその場から動けずにいた。
沖田隊長。
それは彼らにとって絶対無二の強者。
その沖田が人目を気にせず涙を流していることに、心を揺れ動かされずにはいられなかった。
________俺がもっと強かったら。
_________時間を稼げてたら。
_________あのとき勇気を振り絞って一太刀でも恐れずにいれることができていたら。
未来は変わったかもしれないのに。
隊員達は心に誓った。
根が単純な彼らだったからこそ、素直な彼らだったからこそかもしれないが。
次こそは___________……と。