第10章 重なる影
夜空に浮かぶ、大きな船。
月明かりに照らされて妖しく浮かぶ。
「ねぇ阿伏兎、俺の首飾り知らない?」
その時、幼い口調でありながら低い声で話すオレンジ色の髪をもつ少年が現れた。
彼の視線の先には月を見上げる阿伏兎と呼ばれた男が佇んでいる。
しかしその顔は少年を見た後、不機嫌そうに顔になる。
「知らないね。」
「えーまた殺りあってるときに落としちゃったのかな、阿伏兎探してきてよ。」
「ふざけるなこのスットコドッコイ!」
顔に青筋を浮かべて起こる男は少年から距離をおくように後ろに飛ぶ。
「あはは、阿伏兎。何?殺り合いたいの?」
歓迎するよ、と付け加えて微笑む少年。
無邪気な瞳の中から殺気が溢れだした。
月明かりが二人を妖しく照らす。
「ったく…録な思考回路をしてねぇな。」
「俺が求めるのはひとつだけだよ。メンドクサイ事を考えるのは阿伏兎の仕事だろ。」
「…やれやれ、海賊王の次はなんだ、魔法帝でも目指すのか?」
「あはは、魔力なんてモノがなくても」
_______俺は強くなる。
フッと口元に笑みを浮かべる少年。
男の背中にも興奮にも似た悦びが広がった。
しかしそれを察することのできない戦闘狂は自分の首もとを指差しながら、
「……と、まぁそれはいいや。ホントに俺の首飾り知らないの?」
と困ったように尋ねた。
いつもなら「まぁいいか。」で済ましてしまう少年をよく見ている男はその行動に驚く。
「そんなに大事なもんなのか。大事ならつけない方がいいに決まってるだろ。」
「だってつけておくと強者がよってくるようにおまじないしてくれたって言ってたんだよ。そしたら大分してだけど侍にも会えたし。」
へらりと笑う少年。
しかし男は最後の言葉ではなく、あることを示唆した言葉にまた驚いた。
「なんだ、誰かに貰ったのか。」
すると、少年は言ってなかったっけ?とでも言うように首をかしげた後、その時を思い出すように星空を見上げる。
そして言葉を紡いだ。
「うん、俺を殺しかけた唯一の女だよ。」
その感慨を感じさせる言葉が空気に儚く溶けていき、少年は目を瞑った。
彼の名は神威。
千里が殺せなかった男。
『思い出を頂戴。君に殺されかけた思い出。』
『サワギキョウの首飾りをあげる。花言葉は____"敵意"。』