第10章 重なる影
沖田side
あれから、何日たったのだろう。
時間の感覚が惚けている。
いや、もう考えたくないのが本心だ。
心が不安定でシーソーのようにガタゴトと思考を変えてしまう。
現実から目をそらしてもなにも変わらないということは自分が一番わかっているのに。
「……千里……。」
沖田は天井を見つめながら手離した優しさを求めるように手を伸ばした。
しかしその手はいっこうに捕まれず、空を切る。胸のなかに虚無感が満ち、彼の瞳には絶望さえ浮かんでいた。
腹の傷はもうほとんど癒えている。
いつもなら業務にだってサボりつつ戻る。
けれど、どうしてもここから出られない。
朝日を浴びるような気分じゃない。
夜の星に迎えられるような気分じゃない。
闇が外を多い尽くしているようで不安なのだ。
……姉上のときは、俺ァ……。
今覚えばあのときは自分の選択で未来をたどった。
ぶつかって、吐き出して、殴られて、守られて、選んで、進んで。
けど今回は、どうするべきなのかも、どうしたいのかも分からない。
ぐちゃぐちゃだ。
姉上。
俺ァどうしたらいいですかィ?
「総吾。入るぞ。」
沖田が眠りにつこうと目を閉じたとき、野太く、低い声がそれをとどめた。
適当にひとつ返事をする。
予想通り、中に入ってきたのは土方だった。
「何の用でィ。」
いつもより覇気のない眼光を土方に向けると、彼も同じような顔をしていた。
覇気をなくしたとまではいかなくとも、それ相応の表情。
「……いや、そろそろ医者が来るから着物だけはちゃんとしとけと、言いにきた。」
「余計なお世話でさァ。」
ぷい、と小さな子供のように顔を背ける沖田。そんな彼の姿に土方は顔を歪めることもなく、静かに隣に座った。
なにも言わない。
お互いに触れなかった。
言葉にするのがお互いに怖かった。
もしかしたら、千里にとってこの道は幸せなんじゃないか。
自分達のやっていることは彼女を傷つけているのではないか。
彼を捕まえることで彼女の心は壊れないだろうか。
________千里はもう俺達じゃ守れないんじゃないか___________……。