第10章 重なる影
千里side
「……そ、不死身なのね。」
吐き捨てるように言う千里。
正しくは本人が吐き捨てたつもりだった。
しかし、回りはそうは思わなかったみたいで。
「ちなみに屯所にいるらしいぞ、見舞いの品ならお前の笑顔で十分じゃねぇか。」
「果物は飽きてしまわれたようですし。」
ちゃかすように悪い笑みを浮かべる銀時と、本心から嬉しそうに笑うそよ姫。
店の暖かなライトが一人を悪魔に、一人を天使のように浮かび上がらせる。
「余計なお世話よ、行く気もないし。」
この人たちの性格は図太すぎる。
そんなことを思いながら背中を向け、今度こそ歩き出した。男物の着物を晒しながら堂々と、それでいて軽い足取りで。
そして途中で、ボサボサ頭の少年に小さな紙をおく。銀時たちには気がつかれないであろう小さなメモ。
相手が一瞬息を飲む気配がしたが、気にせず歩いていった。
まっすぐ前を向いたまま。
まったく、甘いなぁ私。
ドアを開けて外に出ると、からん、というベルの音と亭主の声が耳に届いた。
右足、左足と歩を進めていく。
コンクリートで作られた道から一歩一歩を感じさせるほど強い感触が返ってくる。
空はまだ赤く染まってはいなかったが、千里は足早に彼のもとに向かった。
愚痴ってやる。
そう心に決めて。
無意識に鼻唄を歌っていた彼女はきっと、上機嫌だったのだろう。
この時期には珍しく、少し冷たい風が千里の頬を撫でた。
服部side
小さなメモはある人への手紙の代わりだった。服部はそれを確認して頭を抱えたくなる。
参った、最初からばれていやがった。
凛とした横顔をこちらに向けることなく去っていった彼女が、くっきりと浮かぶ。
「……好みには程遠いぜ……。」
服部は自分の実力不足に恥じながらも、手元のコーヒーを口に含んだ。
松平さま。
このようなコトはくれぐれも真選組の耳に入らぬようお願い申し上げます。
それと、万事屋さまにもご迷惑がかからぬよう、お計らいくださいませ。
それでこの忍を寄越したことはチャラにします。
サクラ
追伸
そよ姫様のお外遊びは控えた方がよろしいかと。