第10章 重なる影
千里side
あのあと彼らの間で会話が弾むことはなかった。
もくもくと食べ続ける千里。
パフェを片っ端から食べる銀時。
考え込むように俯き、たびたびオレンジジュースを口に含む神楽。
そんな神楽や銀時を交互にみやる新八。
そして微笑んだままサンドイッチを食べるそよ姫。
そうして時は過ぎていく。
空に上る太陽は少しずつ傾き、千里が入店して三時間後。
「そろそろお開きにしますか。」
そよ姫が満足そうに提案をする。
どこに満足する要素があったのか知らないが、反論する気がないので黙って席を立った。
「これ。」
そえして一万円札を机の上においた。
しかしそよ姫は肩をすくめて首をふる。
「今日は私の奢りですよ。」
「借りを作るのが嫌いなの。」
ほら、と千里は銀時に押し付ける。
銀時は銀時で戸惑いながらそれを受け取った。
大人の作法というものが理解できたのだろう、馬鹿はバカでもこの中では一番の大人だから。
それを確認したあと、去ろうとして千里は足を止めた。
ある人のことが脳裏をよぎったから。
銀時やそよ姫達は止まってしまった彼女を不思議そうに見上げる。
何度か千里は躊躇ったあと、唇を結んでそよ姫に向き直った。
そよ姫は小さな顔を驚きで満たしながら彼女の言葉を待った。
神楽は臨戦態勢に入っている。
襲うとでも思っているのだろうか。
そうとらえられる行動に銀時は冷や汗をながす。
しかしいつもなら気を悪くするはずな行動も、彼女は気にする余裕はなかった。
「あの……。」
なんども言葉につっかえたあと、彼女はやっとちゃんとした言葉を紡いだ。
「……の具合は……?」
「え?」
聞き取りにくい小さな声。
不安に揺れた儚い声。
「総ちゃ……沖田の……けがの具合は?」
瞬間、神楽の瞳が大きく見開かれたのを銀時は見た。その顔に切なさと、驚きと悔しさが交互に浮き出る。
対して千里は拳を握り、後悔さえも感じながらそよ姫の言葉を待った。
心のなかでは宗にたいする裏切りだと自分を攻める自分もいた。
けれど口からこぼれた確かなヒトツの本音に、皆が驚き、心を暖められたのはきっと真実で。
「すぐになおります。すぐに捕まえに来ますよ。」
ふふ、とそよ姫は微笑む。