第10章 重なる影
銀時side
「優しいんだよ、お前は。」
ふわりと笑って見せる銀時。
その微笑みには策略も、計画も何一つ含まれていない。
純粋な微笑みだった。
神楽はまた肩を震わせて驚いたあと、おずおずと千里を見る。
銀時の言ったことと彼女が行ったことを天秤にかけているようだった。
新八も同様に戸惑っている。
ただそよ姫だけは何も言わずに瞳を細め、笑っていた。
千里といえば、今銀時の発した言葉を噛み砕いているのか、ぼぅっとしながら銀時と見つめあったまま固まっていた。
「抹茶ミルクと抹茶パフェです。」
その時、店長が柔らかな笑みを浮かべながら注文したものを机においた。
銀時は一言「どうも。」と口にして、彼女に食べるように促す。
しかし現実から目をそらしてしまっているのか、反応は薄かった。
そんなに衝撃的なことを俺はいっただろうか。
そんな疑惑に刈られながら、彼女の次の行動を待つとともに銀時は注文を加えた。
「イチゴパフェ追加でー。」
「はは、銀さん大丈夫かい?そろそろ二桁目に突入するぞ?」
「おー、まだ二桁ならいいほうだ。」
他愛のない話を亭主ともう一往復し、銀時は前を見た。千里がスプーンを手に取り、おそるおそる白玉を口に運んでいる。
毒なんか入ってねぇっつーの。
用心深さにあきれつつ、苦笑する。
そして意を決したように口の中に白玉を運んだ。もぐもぐと確かめるように咀嚼する千里。
その頬がゆっくり、ほどけていく。
幸せそうに目が細められたのを銀時は見逃しはしなかった。
成程、本当に好物なんだな。
銀時の脳内のノートに抹茶好きの四文字が刻まれる。
距離は少しでも縮まっただろうか。
少しでも手をこちらに引っ張って二人を救えないだろうか。
そんな、少し自虐めいた願いが横切る。
まだ、間に合う。
間に合うはずだ。
「……なに。」
視線に気がついた千里が不機嫌そうに口を尖らせる。駄々っ子のような表情に思わずどこかの誰かさんが重なった。
そういや、あいつもそんな顔してたっけな。
勝負で負けたとき。
俺が身長をバカにしたとき。
まだ開いていた片方の目を細めて……。
馬鹿笑い、したっけな。
「何でもねぇよ。」
銀時の一言が空気に溶けるようにその場に浸透する。神楽は小さく俯いた。