第10章 重なる影
銀時side
重臣たちの信頼を失うかもしれない。
皆を心配させている。
彼女はそんなこと重々承知だ。
それでもただ、一国の姫君として。
この国のどす黒く醜い部分と向き合おうとしている。
「あなたは結局あのときは誰も殺さなかった。誰も傷つけなかった。身代金も興味なかった……。なのに……なぜ?」
こういうところは、兄上に、将軍様に似た。
そう銀時は思わざるを得ない。
そしてそれは千里もわかったはずだ。
彼女の真摯さを。
彼女の真心を。
銀時が察するに千里は根は真面目で曲がったことが得意ではないのかもしれない。
ただヒトツの思いを遂行するのに人殺しが必要だと言うことは分かっていても出来ないことがその印。
テロでもなく大量虐殺でもなく、正攻法を突いてきたのは絶対に彼女の性。まっすぐさが彼女には存在する。
そしてその性はきっとよっぽどのことがない限り_________。
「言ったでしょ、人殺しは嫌いなの。」
発揮されてしまうのだ。どれだけ正しくないとわかっていようとも。もとからの性格で口からこぼれ出てしまう。
殺人が大罪なのはわかっている。
罪の意識に苛まれる瞬間がある。
だからどうしても。
「お金には興味なかったから。将軍の立場も興味ない。それだけ。」
ぶっきらぼうに話しているが恐らく本心。
嘘偽りはないと銀時は直感で感じていた。
「……それだけ、納得いかない?」
何も言わないそよ姫をみて拗ねたように視線を下げる千里。
そよ姫は正直に答えてもらえるとは思っていなかったせいで反応が遅れていた。
けれどその声を聞いて、頬をほころばせる。
「いえ。あなたがとても優しい方だとわかりました。」
返答も優しさに満ちたモノで。
銀時は静かに目を伏せ、
「同感だな。」
と言葉を紡ぐ。
ハッと目を見開いて神楽が銀時を睨み付けるなか、銀時は表情ヒトツ変えず、千里と視線を合わせた。
彼女は呆然、というより唖然という顔をして銀時を見つめていた。
「言ったよな。」
その様子を見て銀時は神楽に言い聞かせるように、千里に伝えるように言葉を紡ぐ。
「良かったって言ったよな。」
びくり、と彼女の肩がはねる。
瞳が弱々しく揺れているのを見て、彼女が幼さが際立った。
_________あぁ、やっぱり。