第10章 重なる影
銀時side
「抹茶ミルク。」
おしぼりで手をふきながら淡々と店員と受け答える千里。なんともキモが座っている。銀時は苦笑いしながら、その様子を眺めた。
誘拐犯とその被害者。
攘夷浪士と将軍の妹。
異色、異質でしかない奇跡の対談が叶ってしまったことに、銀時を含めた神楽や新八も驚いていた。
しかし不機嫌そうに時節舌打ちをするのは、本心からここに来たいと言うわけではなかったのだろう。
何に動かされたかは銀時には分からなかったが、今はそよ姫の願いを叶えられたことと、会えたことを心から嬉しく思っていた。
「あの時以来ですね。」
にこりと優しく笑みを浮かべるそよ姫。それと対照的に飾り気のない、毒の含んだ言葉を容赦なく彼女は返す。
「貴女はすごい精神の持ち主だと思うわ、そよ姫。普通大罪人に会いたいなんて思わないはずよ。立場をわかってるなら。」
「私が変人なのはよくご存じじゃありませんか?それにあなたもここに来ました。お互い様ですよ。すごい精神の持ち主同士話したいことがあるんです。」
「ずいぶんしっかりとしていらっしゃいますね。腹が立ちます。それに育ちの良い貴方に話すことなどこちらにはひとつもありませんが?」
がたんっ、と激しい音をたてて神楽が机に足をのせる。けれど理性が彼女をとどめたのか、それ以上はなにもしなかった。
しかしその行動は千里を不快にさせるのには十分で、眉を寄せ、冷たい瞳で銀時を睨み付ける。
「その暴れ馬抑えててくれません?ここで騒いだらそちらにもデメリットがあるでしょ?そよ姫を大罪人と会わせる手助けをしてるのよ。将軍がいくらかばっても、重臣達は納得しないと思うのだけれど。」
吐唾するように語る千里。
的を射ている言葉は神楽をさらに熱くさせる。
沸点が低いのは困ったものだ。
ひとりでに銀時はそう思いながら、静かに手振りだけで新八に抑えるように指示した。
新八も同感だったのかひとつ頷いて神楽の手を握る。
そうして、誰もしゃべらない空間がそこに生まれた。
千里は話す気などないようで、全く誰とも視線を合わせない。
ただ、ある外の一点をチラチラと見ているだけで。
そこに宗がいると言うことは明白だった。