第10章 重なる影
銀時side
いつもの御用達の店で、彼等の訪れを待つ。
いや、正しくは彼女か。
フッと視線を時計に向ければ今は10時。
前にはすでにデザートを網羅し尽くした神楽と、隣にはためらいがちではあるが、ある意味遠慮なしに注文をし続ける新八がいる。
これはそよ姫の奢りなので銀時は止める気も更々なかったが。
既にここに来て一時間が経過していた。
時間設定をしなかった銀時達は開店と同時にこの店に入ったまま居座っている。
亭主には変な目で見られたが、常連の銀時がいることと、注文が立て続けにされることによって、腹をたてられることはなかった。
しかし彼女はいつ現れるだろう。
そもそも現れてくれるだろうか。
溶けきったイチゴパフェを掬うと、奥の客席に座っている男を見た。
手には今週号のジャンプが握られている。
気付かれるなよ_______服部全蔵。
ゆらりと特徴的な髪型が揺れる。
ぼぅとしているように見えて、集中力と殺意をこちらに向けていた。
「銀さん?」
と、その時新八が心配そうに彼を覗き混む。
少し集中しすぎたことに反省しつつ、「わりぃ。」と答えた。
そうして、心のなかでこの依頼が来たときの事を思い出す。小さな頭を平民に下げるそよ姫の姿は必死で、銀時は断ることができなかった______いや、断りたくなかったのだ。
けれど、いつ来るかわからない大罪人を待つ。一国の姫君を危険な目に遭わせているのは事実だ。
しかし銀時は目を閉じて願った。
_________俺も、会いてぇ。
からん。
その時、店のべるが鳴る。
一つに纏めた黒髪が靡いた。
ハッとして視線を移せば、噂の女がゆっくりと店内に入っていくところだった。
_______一人……。
こちらを信用していると言うことか。
相手の賢さに感嘆しながら胸を熱くさせれば、沸々と罪悪感がわく。
「待ち合わせです。」
鈴を転がしたような可憐な声。
その声にそよ姫が反応する。
思いきり彼女は振り返り、視線を絡める。
「千里様……!」
来ることを諦めていたのか、それともダメ元だったのか分からないが、嬉しさと驚きに満ちた声で彼女の名を呼ぶそよ姫。
その輝きを持つ視線に答えるように、相手も軽く会釈した。
一瞬彼女が全蔵の方を見た気がしたが、彼女はなにも言わずにこちらに来た。