第10章 重なる影
銀時side
暖かな日の光が銀時達を包む。
汗が流れるほどではない心地よい暖かさに欠伸が出そうだ。
今からある意味大罪を犯そうと言うのに、しまりがなくなりそうで。
ふぅ、と銀時は息を吐いた。
冬のときには真っ白に染まった息も透明でなにも見えない。
「お久しぶりです。皆様。」
その時朗らかな声が聞こえた。
視線をそちらに移せば、ふんわりと唇を花のようにほころばせる、一国の姫君。
絹のように一本一本丁寧に手入れされた黒髪が時節吹く風に靡く。
「……久しぶりネ、そよちゃん。」
今回の事を快く思っていない神楽が心配な様子を隠すことなく、言葉を紡ぐ。
浮かない表情をしているのはきっと前回彼女を守ることができなかったと言う、申し訳なさだろう。
折れてしまった腕は、さすが夜兎と言うべきかすぐに治ってしまったが、心の傷はまだ癒えていなかった。
それを感じ取ってか、そよ姫はまた微笑む。
「みんなにとって普通の事を将軍の妹の私に教えてくれたのは神楽ちゃんです。楽しい時間をくれて感謝しています。だから、今回の事は気にしないで下さい。」
「でもっ」
「それに。」
神楽の言葉を遮って、そよ姫は言葉を続けた。
「この国の姫として、向き合えるものとは向き合いたいの。」
胸を張り、顎を引き、自分達を見つめる彼女の姿はあどけなさを残しながらも美しさを醸し出している。
あぁ、やっぱり彼女は一国の姫君なのだと改めて思い知らされた。
次元が違うとまではいかなくとも、自分たちが生きてきた世界とは全く違うだろう。
「お付きの者はいかがなさいましたか。」
「あなた達の事を信用してほしいと兄上に頼みました。すぐに承諾してくださいましたし、厳しく兄上が命令をされているところを見ましたから、大丈夫だと思います。」
「真選組は?」
「知らせていません。」
悲しそうに言うそよ姫はすべての事情を知っているのか、あるいは勘づいているのか。
何にせよ、事は上手く運んでいるようで。
銀時がいつもは感じる護衛の気配も、今はない。
まァ_______"いつも"のだけだけどな。将軍、やっぱり不安か。バレなきゃいいけどな。
銀時に止める資格などあるわけない。
静かに瞳を閉じて、彼が見つからないことを祈るのみ。