第10章 重なる影
千里side
「俺が思うに白夜叉はバカな人ではない。」
小太刀を胸にしまっていると、突然宗が言葉を放った。
確信を覚えている言い方に少々戸惑いを覚え、怪訝な顔をする。
けれど宗は躊躇いもなく、言葉を続けた。
「おそらく、護衛は頼まない。」
「……どっから来るの、その自信。」
そう言えば、宗は勘といいたげな顔になる。そんな宗の姿に千里は釈然としなかった。
けれど、ただひとつ言えることは彼のこういった予想はあまり当たらないと言うこと。
確率といっては7:3、当たる確率は少ない。
うぅん、先行き不安だ。
千里は再度じろりと宗を非難の目で見る。彼はウッ、と体を仰け反らせた後、諦めたのか頭を下げた。
まるでギャグ漫画。
千里はその頭をグシャグシャとセットが乱れるくらい撫でた後、高慢な姫君のように言葉を紡いだ。
「……なめこ汁で手を打とう。」
「仰せのままに。」
即答ともとらえられる早さで返事が帰ってくる。彼なりに反省はしているのがよく伝わってきた。
それから少し今日のことについて言葉を交わし、宗は出ていく。
くだらないやり取りに悲しいやら怒りやらが飛んだところで千里は冷静になって考えた。
一人になるとまた頭が冷え、正常に思考が働き、自分の取るべき道が少しずつ見える。
_______約束、か。
ふと、脳裏に美しい花畑が浮かんだ。
コスモスが咲き乱れ、花弁が舞う。
桃色と紅色と、無垢な白。
ズキズキと頭の裏が鈍器で殴られたような鈍い痛みが千里を襲った。
黒く目の前が染まるのを唇を噛み、必死に堪えれば、視界はゆっくり元へ戻っていく。
今は思い出すべきではない。
本能が千里の警告をはっきりと鳴らしていた。
「"藤"にしよう……。」
花言葉は"決して離れない"。
それはあのときの約束。
小さな手で幼いながらも必死に守ろうとし、戦った自分と共鳴するものがあった。
多くの人は身の危険をわかっているのにそれに近づいていくことなどしないだろう。
この話も無視すればいいだけの話。
しかしこの二人は約束と言う言葉に異常な反応を示す。
それは_________二人は過去に_________……。