第7章 廻り始めた歯車
桂side
めちゃくちゃだ。
心の中でため息をつきながら、止めようのない喧嘩を見守ることにした。
ここで止めても部下の怒りは収まらない。
負けるにしろ、勝つにしろ、喧嘩を終えるまで小言はなしとしようか。
さて、ここからどうする。千里よ。
三方向から囲まれる彼女は回りからみれば絶望的だ。一人が囮にさえなれば必ずといっていいほど部下たちの勝ちは見えている。
しかし依然として微笑みを浮かべる千里に勝ち目がないとは言い切れなかった。
そしてその桂の予想は当たることになる。
最初に繰り出したのは桂の部下の突きだった。千里の後ろにいたのだが、それを気にすることなく、彼女は首をかしげて避ける。しかも、その刀を素手で掴んだ。
「んなっ……!」
当然彼女の手からは赤い血が噴き出すが、それをものともせずその刀ごと、男を投げようとする。
それを察知した部下はすぐに刀を手放し、距離をとる。刀は心もとない音をたてて落ちた。
武士として刀を失うことは負けと同じだが、それは予想の範疇だったのか、また別の短髪の男と刈り上げの男が同時に彼女を叩こうと試みていた。
完璧なタイミング。
誰もが彼らの勝ちだと確信していた。
______桂と宗、千里以外は。
「バカじゃないの?」
そう言い放つが否や、彼女は跳んだ。
美しい跳躍で、刀を避けるのには十分な高さだった。髪の毛一本一本がしなやかに揺れる。
しかし________彼女は降りてこない。
「なっ……!?」
部下たちは驚きの表情を浮かべ、彼女を見上げている。
そしてそこでやっと気づいたようだった。
一番最初に男を投げた時。
そして、先程刀を投げた時。
すでに糸は張り巡らされていたのだと。
その上に彼女は乗っているのだと。
四方八方とはいかないが、部屋の広さを熟知していたに違いない。必要なぶんだけ張られている。
見えない糸。
いや、頭に血が上っていたからこそ見落とした糸。
それは自分達が彼女を舐めていた証拠だった。
「敗けだよ、あんたたちの。」
冷徹な鋭い声で勝利宣言をし、彼らは寒気を感じながらも身構えた。
しかし、彼女は躊躇うことなく、手刀を流れるように打ち込む。
「がっ…!」
あまりの早さについていけない彼らは、三人揃って膝をつき気絶した。