第7章 廻り始めた歯車
千里side
「女に負けるのが怖いの?」
赤い唇をあげ、挑発する。
ぶちり、と聞こえるはずのない音が誰の耳にも聞こえたように錯覚した。
「やめろ!」
桂が止めようと後ろを振り向くが、もうすでに時遅し。一人の男だけではなく、数人が刀を振り上げこちらに走って来る。
「千里。」
宗がはっきりとした口調で続けた。
「売った喧嘩は勝ってこい。」
その瞳は同志を信頼しきった瞳だった。
胸が高鳴る。
「了解っ!」
元気よく返事をして、雪螢ではない方の刀を取り出した。
綺麗に手入れされた刀が閃く。
「宗……!」
桂が憎らしげにこちらを見るが、宗は逆に笑った。
「いい機会だと思いませんか。俺たちの力を信用さえしていない奴に教えるだけです。
______女も強いのだと言うことを。」
瞬間、刀と刀が交わる音が響く。
長い髪がなびき、鋭い瞳が彼らを射抜く。
比べようもない反射神経と、培ってきた経験則が彼女を動かし続けた。
「ぐっ……!」
「遅い。」
振りかかった刀を避け、その上に乗る。
頭を右手で掴み、引くと同時に彼の後頭部を踵で蹴る。
手加減はしたが、やはり気絶は避けられなかったようだ。
どさりと鈍い音をたてて、倒れる。
微かな悲鳴が聞こえた気がした。
「次は?」
抜刀した男たちに向けて、手でこちらに来いと挑発する。
彼らは一瞬、後ろに体重を寄せたがすぐに思い立ったのか、
「うぉぉおおお!!!」
雄叫びをあげ、突進してきた。
「そうこなくっちゃ。」
余裕の笑みを浮かべて刀を構える。
その姿に怒りを覚えながらも、桂の部下である三人はこくりと頷いた後、千里を囲むような体型を取った。
しかしそんなのは千里に関係ない。
やることは、眼前の敵を倒すのみだった。
神経をはりつめ、集中する。
この部屋の広さ、敵の位置、タイミング、古傷のある場所、そして、彼らの中にある信頼の値。
「いくぞ!」
瞬間、三人が一斉に千里に斬りかかる。
三方向からの攻撃は防ぎようがない________はずだった。