第7章 廻り始めた歯車
千里side
再度、宗の狂気を確認しこれからの言動に気を付けようと千里が思った時______。
ジリリリリリリリッッ!!!
「うぃっ……!?」
空間を裂くような、耳をつんざくような音がその場に響いた。
思わず千里は耳を両手でふさぐ。
宗は顔をあからさまにしかめたが、音の元凶であろうものをすぐ手に取った。
丸い通信機のようだ。
「もしもし、こちら越後屋。商人ですか?」
一応の確認。
暗証番号のようなものだ。
これで商人ではなく、呉服屋と答えれば味方なのだが。
『商人じゃない!桂だ!』
少し相手は馬鹿なようだ。
「あー……カツラですか。うち、髪の毛は間に合ってますんでヅラは要りません。」
宗も分かってはいるのだろうが、確認をしないわけにはいかない。
呆れ顔ながらももう一度念を押すように、
「しょうに」
『ヅラじゃない!桂だ!』
遮った。
なんなのこの人。
吹き出しそうになるものを喉の奥でグッとこらえそのやり取りを見守る。
宗のこめかみには青いものが浮き出ているのはきっと気のせいだろうと心に銘じて。
「……もういい桂。分かったよ。何のようだ。」
空気のように掴み所のない男に付き合うのは疲れたのか、宗は電話の向こうの桂に向かって問う。
桂もそれ以上なにかする気はないのか、口を開いた。
『宗だな、実は例のアレが手に入った。』
_______"例のアレ"。
それは、先程話していたモノだろうか。
「……どうすれば?」
『簡単だ。14時にいつもの場所で。』
いつもの場所、この前同盟を組んだ桂たちの拠点のひとつ。
そこに集合と言うわけか。
「分かった、14時な。」
確認をし、通話を切る。
「……変な人だね、桂って。」
肩をプルプルと震えさせて、笑いをこらえながら言うと、宗は舌打ちをし、
「もうヅラって呼ぶ。格上の雰囲気が今の電話じゃまるでしない。」
と、悪態をついた。