第7章 廻り始めた歯車
千里side
「ていうか、こんなにのんびりしてていいの?」
もうあれから大分たっている。
犯罪を繰り返すのは正直気が折れるが、大罪を犯したのに少しのんびり過ぎやしないだろうか。
人殺しなどしたくない、したくないのだがこうも暖かな生活を送るといろんな体の部位が鈍りそうだ。
宗も千里と同じことを考えていたのか、渋い表情を浮かべる。
「今、桂に頼んでる。赤根崎家の監視カメラの配置図と家の構造。」
赤根崎家_____影ながら人身売買を生業としている一家。
当主の赤根崎善治郎は敵ながら誉めたくなるくらいに糞野郎だ。
しかし、二人の一番の仇はそいつではない。
少し千里はがっかりした。
「まぁた、手下の一派なの?さっさと親分をやっつけた方が楽……」
ごほん、と宗がわざとらしく咳払いをし、厳しい視線で千里を貫く。
そこではたと千里は宗の言いたいことに気がついた。
「ごめんなさい……失言だった……。」
素直に頭を下げた。
さらさらと細い髪の毛の数本が肩からこぼれ落ちる。
「……分かったならいい。刀の手入れ、怠るなよ。」
気にすんな、そう付け加えて宗はおかずの鮭を頬張った。
千里もそれ以上何かを言おうとすることが出来ず、なめこの味噌汁を飲んだ。
かちゃかちゃと食器と箸が当たる音がその空間を支配する。
その間、千里は静かに思考を進めた。
親玉を叩いたとしても、同じことをやるやつがいるなら終わらない。いきなり頭を叩くより、手足を少しずつ千切る。
宗の考えそうなこと。
そして宗なりの予告。
本当は宗も人殺しなんて、嫌いだから。
自分が狙われていることを自覚して、止めてほしい。
歪んでる、そう思われるくらい狂ってる宗の思考。
でも、その思考に私は惹かれた。
愚直で狂気に満ちた"正義"に。