第7章 廻り始めた歯車
千里side
桂と同盟を組むことに成功してから一週間がたった。珍しくぐっすりと眠れ、夢を見ることもなく朝を迎えることができた。
心地よい気分のまま、少しだけ窓を開ければ、絵の具をぶちまけたような雲のない青空が広がっている。
「最近、雨降らないけど平気かな。」
ぽそりと独り言を言えば、近くにいた宗には聞こえたようで呆れ気味にため息をつかれる。
「雨が降ってくりゃ、傘で顔を自然に隠せるんだけどな。買い物にも行けねぇ。」
本日三日連続となるなめこの味噌汁をつぎながら、ふて腐れたように言葉を紡ぐ。
空っぽの冷蔵庫にもう宗の好物はない。
それが不快で仕方ないのだろうが。
「氷菓子なんて買ってもなにも思われないよ。」
「バカいえ。そろそろバレてるだろ、俺の素性くらい。」
バレてなかったら無能もいいとこだ。
そう付け加えてなめこの味噌汁を差し出す。
千里は嬉しそうにちょこんと宗の向かい側に座った。
「なめこは貯蓄量が半端じゃないからな……。」
「ふふふ、準備いいでしょ?」
いたずらが決まった子供のように千里は笑う。
そして、木で作られた箸をもって、食べるときの決まり文句を言った。
味噌汁の香りが鼻をくすぐり、食欲をかき立てる。
「へへへー。」
「ったく、ぬるぬる汁の何がいいんだ、何が。」
「ぬるぬるな感じが好き。」
「もっと女子らしくなれ、女子らしく。」
うるさい、と頬を膨らませる千里。
反撃に出る。
「宗こそ、氷菓子の何がいいの?」
目を細めて意地悪に聞く。
すると虚をつかれたかのか、宗は小さくむせた。
そして、つっかえながら
「……甘いところ。」
と答える。自分でも説得力に欠けるのを理解しているのか、自信なさげだ。
予想通りと心の中で微笑み、用意していた台詞を紡ぐ。
「それだったら砂糖でいいじゃん、砂糖で。男らしくなれ、男らしく。」
言われたことをそっくりそのまま返すと、宗は嫌そうに顔をしかめた。
やがて降参を示しているのか、両手を顔の横に挙げ、ふらふらと手をふる。
「ったく、お互い様だな。」
「あはは。」
暖かな笑いがその場に満ちる。
まるで無くしたものを取り戻そうとしているように。