第4章 Halloween
「Trick or Treat!」
部室のドアが開くのと同時にオレは手を差し出した。
「えっ…あっ…えっと…。」
部室のドアを開けたのはオレの期待を外すことなくその相手。
マネージャーのチャンが頬を染めてほんの少し戸惑っている。
「お菓子をくれなきゃ…イタズラしちゃうぞ!」
部室には誰もいない事を良い事にオレは少し大胆になる。
ズイっと顔を近付けると益々紅くなる顔にさっきまで冗談だった“イタズラ”をしたくなる。
「イタズラ…しても良い?」
チャンとのキス迄後少しというトコだった。
口の中に甘酸っぱい味が広がった。
予想外に口内へ広がったその味に思わず視線を右斜め上にあげる。
「はっはー。お望み通りのお菓子だろ。バカ尾。」
黒い笑みを浮かべた宮地サンがチャンを庇うようにして立っていた。
「ブッフォォッ!何言ってんすか!!ジョーダンですって!」
「どうだかな?オレが来るのもう少し遅れてたかと思うとゾッとするわ。」
イケメンに阻止されたオレの儚すぎる夢。
1日の練習を終え部室で着替えを済ませてこれから帰ろうとドアに手を掛けた瞬間だった。
「Trick or Treat!」
外からの冷たい空気が流れ込んで来てそこにはほんのり頬を染めたチャンの笑顔があった。
「あ…へ?マジ?」
「お菓子をくれなきゃ…イタズラしちゃうぞ!」
小首を傾げるようにして上目遣いで見つめられる。
「待って…お菓子…」
さっきと真逆の状況にオレは何故かカバンの中にお菓子がないか探してしまった。
「お菓子…持ってないの?」
「いや…どこかに…
飴があったはず…と続くはずだった言葉は途中で遮られた。
「?!」
温かくて柔らかい感触。
それは想像する以上に甘い…唇。
「イタズラ…しちゃいました!」
唇を離したチャンは顔を真っ赤にして眉を八の字にして笑った。その表情が可愛くて抱き締めたくなる。
しかし、やられっぱなしは性に合わない。
チャンの腕を引っ張って腕の中に閉じ込める。
「Trick or Treat!お菓子をくれても…イタズラする!」
抱き締めた腕を緩めて、チャンを真っ直ぐに見つめると静かに瞼が下りた。
オレにとってのお菓子はチャン…
なんて言うことはオレだけの秘密にする。