第9章 ワイン
狭いベランダに並ぶリクライニングチェアー。
小さな丸テーブルも気休め程度に置いてあるけど。
リクライニングチェアーに座って無防備に放り出された脚は、スラっと長くて白い。
無意識の仕草でさえ俺がドキドキしている事なんてコイツは知らないだろう。
そこに響くインターホンのチャイム。
が来る今日に合わせて注文しておいた赤ワイン。
一緒に飲むとその相手への思いが成就する…なんて乙女チックなジンクスを持つ。
冷蔵輸送されてくるから、届いたら直ぐに飲める様になっている。
配達員から箱を受け取ると直ぐに開封した。
ラベル自体が淡いピンク色でそこに綴られる文字はアンティークローズのような色合い。
きっと恋愛成就と言われるのはそれだけじゃない。
ラベルに隠された…意味に気付く事に期待しながら俺はグラスを二つ持ってベランダへ戻った。
「ワイン…も飲むだろ?」
「赤?」
「お前は赤じゃないと飲まないだろ?」
嬉しそうに笑うは高校の時から変わらない優しい笑顔。
この笑顔が俺の心を掴んで放さないのだから、俺はに弱い。
ゆっくりとワイングラスに注ぎ込む深紅の液体はまるでサテン生地のような光沢と艶、
何よりもそれを流し込むの喉元が色っぽくて俺は息を飲む。
「、俺達ってさ付き合い長いよな。」
「どうしたの?」
「男女の友情ってお前的にはどうなの?」
「有り…だと信じたいかな。綺麗事だと言われるかもしれないけどね。鉄朗は?」
「相手による…かな。」
丸テーブルにグラスを置いて、俺は立ち上がる。
の座っているリクライニングチェアーに片膝を乗り上げて、肘置きへと両手をついた。
真っ直ぐにの瞳を見つめる。
「男女の友情は有り…だと俺も信じたいけどな、お前とは無理だ。」
「鉄朗…?」
急すぎる俺の行動に理解出来ていないのか、目の前のは戸惑っている。
「ずっと好きなんだよ。俺の前で無防備なお前見てて理性保つの辛い。」
「ちょっと待って…」
俺の胸を少し押し返す様にの手が添えられた。
その手を掴み取ると俺は鼻先の距離まで顔を近付た。
「鉄朗、好き。」
消え入りそうな声だけど俺には響く声。
ワインラベルの文字は“愛してる”を意味する言葉になる文字だけが濃い色で綴られている。