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【SS合同企画作品】冬が来るその前に

第9章 ワイン


2人掛けの丸テーブルを恋人と囲む。
社会人になってスーツを纏う彼の色気は、割り増しでは無く乗算されている気がして、
仕事帰りの彼と肩を並べる時私は何時もドキドキしてしまう。
薄暗い店内には各テーブルにキャンドルが一つ。
ゆらゆらと揺れる灯は幻想的で妖艶な雰囲気をつくり出す。
キャンドルの灯りが彼の黒髪を照らし…色白な肌を照らし…綺麗な顔立ちを更に引き立てる。

「?」

そんな彼に見惚れていると、私の視線に気付いた彼が顔を覗き込んできた。
グッと近くなった距離。
彼の瞳に自分のシルエットを確認すると、途端に鼓動が早鐘を打ち出す。

「辰也の横顔が綺麗だから見惚れてた。」

思った事を真っ直ぐに伝えてみる。
すると、彼は少し困った様に眉毛を八の字にして笑った。

「オレは…が綺麗過ぎて見惚れる事も出来ないのに。」

彼からの甘い言葉に、顔が熱くなる。
そんな私の頭を優しく撫でると、辰也はワイングラスの中にあるワインを揺ら揺らと回し始めた。

「オレが赤ワインを好む理由…分かるかな?」
「何時も赤ワインなのは知ってるけど。理由…考えた事なかったな。」

私の言葉に顔を覗き込む様に少しだけ辰也が首を傾げた。
黒髪で隠れていた目元のホクロが顔を出した。

「に似てるから。」
「…私…に?」

きっとマヌケな表情をしている自信がある。
そんな私を見て、辰也の口元は緩やかな孤を描き目は優しげに細められた。

「この深紅に輝く色は艶やかで…芳醇な香りは蜜の様に甘い。
まるでの様にね。」

キャンドルに照らされた瞳が揺れて、冴灰色の瞳がまた優しく細められた。
その目元を引き立てる泣きぼくろは、まるで計算されたかの様にその存在を放っている。
決して華奢ではない辰也の長い指が私の頬を撫でる。

「ワインと言う媚薬の余韻を残したまま…そろそろ部屋に帰ろうか?
明日はお互い休みだし。ゆっくり…過ごせそうだな。」

少し含みを持たせた言い方をした辰也が妖しく微笑む。

“手加減はしてあげられないから…ゴメン”

耳元で息を吹きかける様に囁かれた言葉。
媚薬に冒された辰也は、人目を気にすることなく私に優しくキスをした。

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