第9章 ワイン
目を伏せた時に影を作る長い睫毛。控え目に微笑むその横顔。
ずっと一緒に居たはずなのに、何で今まで気付かなかった?
「最近仕事忙しい?」
「ん〜…それなりかな。」
手持ち無沙汰にワイングラスの縁を指先で撫ぞる。
幼なじみのと肩を並べるワインバー。
何時もはサングリアを好むクセに、この時期になると決まってワイン。
「なぁ、。この時期に決まってワインなのは何か理由あるのか?」
「秋…だからかな。ワインは衛輔とって決めてる。」
「ブッ…!何で!」
「え…?何となく?」
何かをはぐらされた気もする。
しかもワインは俺とって意味深な発言をされちゃ気になって仕方がない。
小さなポットのチーズフォンデュ。
滑らかなチーズの中に角切りされたパンをサッと通す。
尾をひくように伸びるチーズをは器用に絡め取る。
その所作をぼーっと見つめていると、俺の口の前に差し出された。
「はい。あ〜ん。」
彼女とだってこんな事した事は無い。
人前で無くても恥ずかし過ぎるこの行為に自然と顔が発火しそうになる。
「ぷっ…衛輔、顔真っ赤!」
「……っるせー!!」
なんだか癪に触る。だから、俺はの手を掴んでバクッとチーズでコーティングされたパンを咥えてやった。
「衛輔って、彼女居ないの?」
「ッ…いねーよ!」
「カッコイイのにね?」
少し暗めの店内で、テーブルの上にはロウソクが揺れている。
その炎の揺れを映すの瞳も揺れていて、ほんのり紅く染まった頬がやけに煽情的に見える。
「バーカ!何言ってんだよ!」
グラスの中に残っていた白ワインをぐいっと一気に飲み干した。
喉を流れるワインは辛口のはずなのに、なぜか甘く感じる。
の指先はまたグラスの縁を撫ぞっている。
その指先が止まった瞬間、俺はの手からワイングラスを奪っていた。
が飲んでいた赤ワインを少しだけ口に含む。
呆気に取られているの顎を軽く上に上げると、俺はに唇を重ねた。
重なり合っただけの唇…ほんの少しだけ開かれたら俺は口の中のワインをの口の中へ流し込んだ。
口の中のワインが無くなって…ゆっくりと唇を離す。
「、好きだ。」
俺の言葉には優しく笑った。