第9章 ワイン
11月の第三木曜日。
今年は…11月19日
それは社会人になったオレが楽しみの一つとしている日。
アルコール類がダメな彼女にもこの味を楽しんで欲しくて、今年はネットとか色々情報を集めた。
あと2週間もすれば12月に突入する事もあって街は、クリスマスムードに染まりつつある。
冬の足音が聞こえてくるこの時期は、実りの秋を堪能出来る至福の時間。
ガチャ…
玄関のドアの鍵を開けて、一歩踏み込むと部屋の中からは食欲をそそるいい香りが漂ってきた。
「ただいま!」
「あ…おかえり!!」
台所で、が笑顔で出迎えてくれた。
「、今日ね…解禁日なんだ。」
オレは得意げににワインのボトルを差し出した。
「俊の毎年の楽しみだね!」
「わいのワイナリーでお祝いなり……キタコレ!」
「フフフ…わかったから。早く着替えて来て。」
大学で知り合った。
オレのダジャレにも呆れる事なくいつも包み込むような笑顔を向けてくれる。
こんな時日向だったら…「黙れ伊月。」で一蹴されてしまう。
ルームウェアに着替えてリビングに戻ると、が台所から声をかけてきた。
「俊?この紙袋の中身は?」
「あ…それね!もワインを楽しめるようにグリューワインを作ってみようと思ったんだ。
本当はワインのアルコールを飛ばさずに作るものらしいけど、そこはね?わざと…そうしてみようかなと思って。」
説明してる内になんだか小っ恥ずかしくなって、頬が熱くなった。
「俊が作ってくれるの?」
黒目がちな真ん丸い瞳がオレを見つめてくる。
「もちろん!だからは向こうで待ってて!…ハッ!待ちわびたマーチはビター!キタコレ!」
がクスクス笑いながら既に料理が並べられたテーブル席へと腰を降ろした。
ワインにオレンジピールと砂糖を入れてミルクパンで温める。
出来上がった所へシナモンパウダーをほんの一振り。
耐熱ガラスのカップに注いで目の前に差し出す。
カップの中ではワインが深紅のビロードのように揺蕩う。
自分の分のワインをグラスに注ぐと、こちらはワイン特有の芳醇な香りが広がった。
「今年も秋の実りに。」
オレがかざしたグラスにそっとカップを重ね合わせる。
「乾杯。」
楽しみは目の前に居る大切な女性と共有したい。